取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
 なのに、父は跡継ぎに千景を選んだ。
 やはり男でないと駄目なのだろうか。
 女であることは、それほどまでにハンデなのだろうか。

 神職はもともと男社会で、今でも女性の神職が差別されている話を聞いたことはある。セクハラ、パワハラは神社の世界にもある。
 それでも頑張ろうと思っていたのに。父まで女性を差別しているなんて。

「……お母さんはどう思ってるの?」
 棚の写真に問いかけるが、返事はない。
 優維は立ち上がる気力もなくずっと座り込んでいた。



 結婚してからは、彼と同じベッドで寝ている。
 だから寝る時間には重い体をひきずって寝室のベッドに入った。
 今夜、と彼が言っていたのはなんだったんだろう。

 ベッドに入ってから思い出す。
 自分の予想とはまったく違うことを言おうとしたのかもしれない。
 横になってしばらくすると、千景が入ってきた。

「優維さん……寝てるのか?」
 返事ができず、寝たふりをした。さきほどの千景と直彦の会話が胸に痛いから。

「良かった」
 つぶやきに、優維の心臓が止まりそうになった。
 良かったとは、どういう意味だろう。
 寝ているからなにもしなくてすむ、という意味だろうか。
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