取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
 優維のショックなど気にする様子もなく彼は隣で横になり、数分後には寝息を立て始めた。
 彼女は起き上がり、千景を見る。彼は優維に背を向けて眠っている。

 優維はため息をつき、ベッドを降りた。
 自室に戻るとエアコンを入れて押し入れから布団を出して敷き、横になる。

 最初からこうしておくべきだった。
 彼は神社がほしいと言っていた。関係を円滑にするために愛を語っていただけで、本心ではないのかもしれない。

 そこまで気を遣ってくれているのに、自分ときたら。
 愛されているとうぬぼれて、告白しようなんて思って。

 だけど、もしかしたら本当に愛してくれているのだろうか。
 嘘であんなに情熱的に愛をささやけるとも思えない。
 これは、そうであってほしいという願いでしかないのだろうか。

 疑い始めたらきりがない。彼の心の正解が他人である自分の中から生まれるわけがない。
 なのに、探してしまう。願ってしまう。
 彼の本心を探しながら眠ったその日、迷宮から出られずに延々とさまよう夢を見た。



 朝、起きたらすぐに食事の準備をした。
 直彦も同席する朝食では、千景はいつものようにやわらかな笑みを浮かべて食事をした。

 千景は気付いているだろうか。昨夜、別室で眠ったことを。
 だけどそのことに触れられたくなくて、優維もいつも通りを装った。

 夜になると、千景に言った。
「これからしばらく早出になるから、別で寝るね」
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