取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
「君の家が神社だと知って、それから興味を持ったんだ」
「でも神職って大変でしょ? お給料だって」
 同じ大変なら給料のぶんだけ官僚のほうが良かっただろう。

 社家ではない人——神社の生れでない人が神社に勤めることは大変だ。現在は人手不足ではあるものの、奉職の際は社家出身のほうが喜ばれる。神職の内容を把握しているし、人品の保証があると思われるからだ。

「でもやりがいのある仕事だよ」
 言われて、優維は失言を悟った。いきなり給料に言及するなんて。
「ごめんなさい、私、失礼よね」
「いいよ。わかってくれてるほうが、俺としてもありがたい」
 どういう意味だろうと首をかしげた優維に、彼は続ける。

「このお見合い、話を進めてもらいたいと思ってる」
 優維は慌てた。
「待って、私はお見合いって聞いてない」
 たぶんそうだろうとは思ったのだが。

「俺もそうは聞いてない。だけど実質のお見合いだと思ってる。君は嫌だったか?」
「嫌とかじゃなくて」
「だったら前向きに考えてもらえないか」
 まっすぐな瞳に射抜かれ、優維はどきっとして目をそらす。

「だけど私は神社の跡を継ぎたいと思ってて……」
「俺が婿に行く」
 驚いてまた彼を見ると、やわらかく微笑している。
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