取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
「そんな簡単に」
「神職を続けるならそういう可能性があるとずっと考えて来た」
「だけど」
 急展開に、優維は答えに詰まる。

「会社員の男より神職のほうが君にとっても都合がいいのでは?」
「……そうかもしれないけど」

「君が神職を目指してるのも、平日は会社員で土日は巫女をしてるのもお父さんから聞いて知っているよ」
「お父さん、なんでも話すのね」
 優維は顔をしかめて肩を落とした。

「俺は君のことを聞いていたから親近感を持ってるけど、君にとっては十年ぶりくらいか?」
「最後に会ったのは卒業式?」

「成人式にもいたけど……俺のことは眼中になかったみたいだな」
「なんかごめん」
 謝ると、彼は苦笑をもらした。

「まずは俺を知ってもらうところからか。また会いたい」
 言われて、どきっとした。
 今まで恋に縁遠い生活をしてきたから、緊張しかない。

「嫌なら無理しないでくれ」
「嫌じゃないよ」
 慌てて言うと、千景がやわらかく笑みを見せ、またどきっとした。

 それからしばらく雑談を交わし、連絡先を交換した。
 優維が帰るときにはタクシーに同乗して送ってくれて、そんなことをされるのが初めてだった優維は、緊張とときめきが同居してずっと落ち着かなかった。
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