取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
 だがもう今は結婚したので辞めていた。保存会には主婦も老婦人も所属して舞っているが、自分はそういう気持ちになれなかった。
 が、こうして見ていると、彼と同じ舞台に立ちたかったと思ってしまう。

 彼の舞が終わり、千早をまとった幼い巫女たちが最後の舞を始める。花をつけた前天冠、その下についた金具の飾りがしゃらしゃらと鳴る。

 優維は下がった千景に麦茶の入った紙コップを手渡した。
「お疲れ様。素敵な舞だった」
「ありがとう」
 彼はいつものようにやわらかに笑み、麦茶を飲みほした。

「発表会、時期を変えたほうがいいな。熱中症の心配がある」
「保存会の人たちも変更したいって言ってたわ。もともとは会員の子どもたちの学校行事を避けて六月にしていたみたい」
「ああ、それで」
 納得したように千景が言う。

「小さい頃は君も舞ってたんだろ? ビデオとかない?」
「うーん、どうかな」
「お義父さんに聞いてみるよ」
「やだ、恥ずかしい」
 目をそらした優維は、近付いてくる女性に気が付いた。

 綺麗な人だった。優維よりも少し年下のようだ。肩を超える髪はゆるく波打ち、毛先が外にカールしている。フレンチスリーブから覗く腕は細く、ハイウェストの白いマーメイドラインスカートは彼女のスタイルの良さを強調している。
 彼女はまっすぐ千景に歩み寄った。気付いた彼は顔を険しくする。
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