取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
根古間神社に着くと、千景はタクシーを待たせて一緒に降りる。
彼は背が高いから隣に立つと頭一つ分、優維より大きい。ただそれだけで頼もしく思えてしまう。
「玄関まで送るよ」
「そんなのいいのに」
「君のお父さんにも挨拶してから帰りたいんだ」
やわらかな微笑に、優維の胸がまたどきっと鳴る。
「久しぶりに見るけど、やっぱり狛猫は珍しいな」
鳥居の両側に控える二体の石像を見て千景が言う。普通なら狛犬がいるそこに、阿吽の猫の石像があった。
「根古間神社は猫を祀ってるから」
「この地域で養蚕が盛んだった名残なんだよな。養蚕の敵はネズミだから」
「そう、稲作の敵もネズミ。だから猫が大事だったの」
ネズミは雑食で米も蚕も食べてしまう。だからネズミを捕る猫はこの地域ではとても大切にされてきた。
根古間神社の名は猫の古名である『禰古末』からきている。ネズミを待つの意であると言われているが、猫の名前の由来についてはほかにも『寝る子』がなまったなど諸説ある。
伝統はあるが、根古間神社の規模は小さく収入は少ない。かけもちで管理しなくてはならない神社もある。
彼はお見合いを進めたいと言ってくれたが、それはつまり結婚を前提としているわけで、彼の真意をはかりかねた。