取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
「水族館なんて」
 まるでデートみたいで、警戒してしまう。
「ここなら邪魔されずに話ができます。それとも個室のレストランが良かったですか?」
 聖七に言われ、優維は首を振った。

「無理しないでください。信用されないのは慣れています」
 聖七は悲しげな笑みを浮かべ、遠くを見るような目をした。
「子どものころからそうです。同級生や教師、大人になった今は社員や取引先から警戒されています」
 そう言われると良心が痛む。

「父を恨んだこともあります。でも、どうしようもないことなので。あんな父ですが、家族への愛情はあるんですよ」
「それはわかります」
 息子の結婚のため、間違っているとはいえ尽力しているのだから、きっと彼を大切に思っているのだろう。
「わかってもらえてうれしいです」
 聖七は嬉しそうな微笑を浮かべた。

「でも、今日は話を聞いたらすぐに帰ります」
「もちろん。遅くなっては警戒されますからね」

 彼に連れられて水族館へと入る。
 入館してすぐに見えるのは大水槽だ。大小も様々に色とりどりの魚が泳ぐ中を、大きなエイがひれをひらひらさせて横切っていく。

 その奥にベンチがあり、聖七に促されてそこに座った。当然のように隣に彼が座るのだが、なんだか千景を裏切っているようで居心地が悪かった。
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