取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
 さらに奥、関係者しか入れない場所に行き、祭壇の裏にある棚の扉を開けて安置されているはずの神像を確認する。
 が、そこにはなにもなかった。
「どうしてないの」
 呆然としたときだった。
 がた、と音がして振り返ると男性が立っていた。

「ひっ――!」
 思わず声を上げる。と、相手が懐中電灯でこちらを照らして来た。

「優維さん、そこでなにを?」
「千景くん」
 優維はうろたえ、あとじさる。

「こんな時間にどうして?」
「千景くんこそ、どうして」
「優維さんが出て行くのが見えたから、心配で」

 なにを心配したんだろう。
 優維はそう思って、顔を青ざめさせた。
 千景を疑っているとバレたら、どうなるのだろう。
 窃盗犯が逆上して凶行に及ぶ事件もある。自分もただではすまないかもしれない。

「久しぶりに猫の神像を見たくて」
 なんていう無理のある言い訳だろうか。だけどほかになにも思いつかなかった。
「この前、お義父さんが修理に出したよ」
「聞いてない……」
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