取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
 大藤神社は警察に通報しただろうか。警察沙汰を嫌って通報していないかもしれない。内部の犯行ならなおさら、評判に関わる。弁償すれば退職させてうやむやするかもしれない。
 そこへ直彦からの縁談があったのだとしたら。

 苗字を変えられるのも好都合だろう。窃盗犯の『草凪』は消える。そのための二千万、人生を買うには高くはないように思える。
 バレないように気を付けてください、あれは窃盗の仲間に対しての言葉だったのだろうか。

「そんな、待って……」
 愛をささやいたのも甘い態度も、なにもかも嘘だったのだろうか。
 信じていた世界が壊れていくようだった。

 いつもやわらかな笑みを浮かべて穏やかな口調で話している千景。優維の前でだけはくつろいだ口調だったから、自分にだけは素を見せてくれているのだと思っていたのに。本当の彼は、もっと別のところにあったのだろうか。

「猫の像は私が落札しました。届いたらまた連絡します。優維さんは神社の中を確認してください。まだ写真だけの状態です。ほかの人には内緒にしてください」
「わかりました」

 話を終えるとまた一緒にタクシーに乗り、駅前で降ろしてもらった。
 どんな顔をして千景に会えばいいのかわからず、帰宅の足取りは重かった。



 夜の神社はどことなく怖い。子供の頃、夜の神社には神様を頼って幽霊が来ると友達に言われたときにはひとりでトイレに行けなくなった。

 懐中電灯で照らされた神社はなおさら不気味だ。肝試しに来る不届き者がたまにいるが、それにふさわしい場所であることを実感するはめになるとは思わなかった。

 本殿にこっそり入ると、古い床が、ぎし、と音を立てた。気になって、なんとなく猫足になってしまう。
< 83 / 148 >

この作品をシェア

pagetop