「「完全なる失恋だ」」と思っている夫婦ですが、実は相思相愛です!~無愛想な脳外科医はお人好し新妻を放っておけない~
 ぎゅっと抱きしめているお母さんの目には、涙がにじんでいた。きっとすごく心配したのだろう。

「この度はご迷惑をおかけしました」

「ごめんなさい」

 女の子も母親と一緒に頭を下げた。

「治療、すごく頑張っていましたよ。な?」

 南雲先生はかがんで女の子の頭をなでていた。女の子も少し得意そうにしている。

 言葉も多くなく、子どもからすれば少し怖いと思うかもしれない。

 しかし少し触れ合えば彼の優しさはすぐにわかるのだろう。女の子はすっかり南雲さんになついている。

 私もあのとき助けてくれたのが、彼で本当によかったと思う。

 半歩引いたところでようすを見ていたら、女の子が私の方へ駆け寄って見上げてきた。

「お姉ちゃん、ありがとう」

「いいえ、どういたしまして」

 私もかがんで視線を合わせる。

「痛いのによく頑張ったね。早く治るおまじないしてもいい?」

「うん」

「痛いの痛いの飛んでいけ~!」

 私が人差し指を包帯の巻かれた手にちょんちょんと付けて、それから痛みが飛んでいくイメージでふいっと遠くに飛ばした。

「早くよくなって、また自転車に乗れるといいね」

「うん。バイバイ」

 小さな手をふりながら、女の子はお母さんと一緒に歩いて帰っていった。

 ほっとして、息を吐く。すると隣から「おつかれさま」と声が聞こえてきた。

「はい。南雲先生も遅くまでおつかれさまでした」

「まぁ、別に特に予定もなかったしな」

「お祭り、行かなくていいんですか?」

「え、祭り? いや、もうこの歳になってひとりで行くのはさすがに……花火も特等席で見られたしそれでいいよ」

 苦笑いを浮かべながら、髪をかき上げた。

「たしかに、花火はすごかったですね」

 救急外来の自動ドアを抜け外に出る。病院の前の道路はたくさんの人であふれかえっていた。

 お祭りのメインイベントの花火が終わって、帰宅の途についているのだろう。

「君はこれからどうするの?」

「まずは荷物を取りに行きたいんですけど。あの……」

 今さら気が付いた。必死になってついてきたせいでここがどこだかわかっていない。

 頼れるのは目の前にいる南雲先生だけだ。

 ちらっと彼の様子を見ると、どうやら私の状況を察してくれたようだ。

「もしかして君、あの場所に荷物をおきっぱなしにしてきたのか?」

「はい……実は」

 自分の計画性のなさがはずかしくて、顔をそむけた。
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