スパダリ起業家外科医との契約婚
第四章 夜
第四章 夜
壮一郎がとっている部屋は、上層階のツインルームだった。清潔感のある白いシーツが敷かれたベッドが二台と、簡単なソファ、テーブルがあり、窓の外は夜景が広がっている。結婚式用の宿泊なので、あまりリラックスとは程遠いビジネスライクな部屋を想像していたが、意外にも十分に快適そうだ。
「ごめんなさい。本当にちょっと休むだけなので、適当にソファでもいいです」
「ベッドを使え。どうせ同期会に行った後は俺が戻ってきても、またすぐ病院に呼ばれるかもしれないから、どっちみちゆっくり寝る時間などない。それに……」
壮一郎はスーツの上着を脱ぎながら、テーブルの上にスマートフォンを置いた。
「こんなところで申し訳ないが、アルコールを摂りすぎているなら少し水分補給をしろ。あと、医者の立場から言えば、風呂に入る前に転んだりしないようにな」
「飲んでるのはシャンパンをちょっとだけですから、そこまで酔ってはいないと思います。でも……体はかなりだるいかもしれないです」
「じゃあ、なおのことベッドに横になったほうがいい。タオルを貸すから、メイクオフするなら遠慮なく使え。ドレスも苦しいだろう。部屋着は……俺のシャツでよければある」
淡々としながらも、彼なりに気を遣っているのがわかる申し出に、涼子は戸惑いつつもうなずいた。これほどの親切を、クールな彼から受けることになるとは思いもしなかった。
正直、一緒の部屋で休むなんて普通では考えにくい状況だが、今日は兄の結婚式。彼も周囲を気遣って「自分が部屋をあけるから涼子がここで休めばいい」というスタンスなのかもしれない。
バスルームを借りて、メイクを落とし、シャワーで軽く体を洗う。熱いお湯を浴びると、途端に疲れがどっと出てくる。身体が重い。タオルで髪をざっと拭き、壮一郎から借りたワイシャツを羽織ってみると、彼の体温の残り香を感じるようで胸が高鳴る。
これまではあまり意識できなかった“男性”としての魅力を、彼のワイシャツ一枚から感じ取っている自分が、なんだか恥ずかしい。
バスルームから出ると、壮一郎はソファに座り、タブレットを開いて何やら書類をチェックしていた。おそらく会社か病院に関する作業だろう。
「……疲れたならすぐ寝ていい。起こさずに出るつもりだから。同期会の後に顔を出せるかどうか、携帯を教えておいてくれれば、あとで連絡をする。もし寝てしまうなら無理せずゆっくり休め」
「そ、そうですね……一応、荷物からスマホ出しておきます……」
涼子は慌てて自分の鞄からスマートフォンを取り出し、連絡先を交換した。
あの高柳壮一郎と連絡を交換する日が来るなんて、少し前の自分には想像もつかなかった。
ベッドに横になり、やわらかな枕に頭を沈めると、すぐにまぶたが重くなってくる。結婚式の緊張感と、人混みの疲れが一気に押し寄せ、意識が遠のくのがわかった。
朦朧とする意識の中、ふとベッド脇に壮一郎が近づく気配を感じた。
「……涼子、寝付けそうか?」
どこまでも穏やかな低い声。彼の言葉に頷こうとして声にならない。眠気が勝っていた。
温かな手が額に触れるような気がした。それは医者としての手つきなのか、それとも——。夢とも現実ともつかないまま、涼子は深い眠りに落ちていった。
壮一郎がとっている部屋は、上層階のツインルームだった。清潔感のある白いシーツが敷かれたベッドが二台と、簡単なソファ、テーブルがあり、窓の外は夜景が広がっている。結婚式用の宿泊なので、あまりリラックスとは程遠いビジネスライクな部屋を想像していたが、意外にも十分に快適そうだ。
「ごめんなさい。本当にちょっと休むだけなので、適当にソファでもいいです」
「ベッドを使え。どうせ同期会に行った後は俺が戻ってきても、またすぐ病院に呼ばれるかもしれないから、どっちみちゆっくり寝る時間などない。それに……」
壮一郎はスーツの上着を脱ぎながら、テーブルの上にスマートフォンを置いた。
「こんなところで申し訳ないが、アルコールを摂りすぎているなら少し水分補給をしろ。あと、医者の立場から言えば、風呂に入る前に転んだりしないようにな」
「飲んでるのはシャンパンをちょっとだけですから、そこまで酔ってはいないと思います。でも……体はかなりだるいかもしれないです」
「じゃあ、なおのことベッドに横になったほうがいい。タオルを貸すから、メイクオフするなら遠慮なく使え。ドレスも苦しいだろう。部屋着は……俺のシャツでよければある」
淡々としながらも、彼なりに気を遣っているのがわかる申し出に、涼子は戸惑いつつもうなずいた。これほどの親切を、クールな彼から受けることになるとは思いもしなかった。
正直、一緒の部屋で休むなんて普通では考えにくい状況だが、今日は兄の結婚式。彼も周囲を気遣って「自分が部屋をあけるから涼子がここで休めばいい」というスタンスなのかもしれない。
バスルームを借りて、メイクを落とし、シャワーで軽く体を洗う。熱いお湯を浴びると、途端に疲れがどっと出てくる。身体が重い。タオルで髪をざっと拭き、壮一郎から借りたワイシャツを羽織ってみると、彼の体温の残り香を感じるようで胸が高鳴る。
これまではあまり意識できなかった“男性”としての魅力を、彼のワイシャツ一枚から感じ取っている自分が、なんだか恥ずかしい。
バスルームから出ると、壮一郎はソファに座り、タブレットを開いて何やら書類をチェックしていた。おそらく会社か病院に関する作業だろう。
「……疲れたならすぐ寝ていい。起こさずに出るつもりだから。同期会の後に顔を出せるかどうか、携帯を教えておいてくれれば、あとで連絡をする。もし寝てしまうなら無理せずゆっくり休め」
「そ、そうですね……一応、荷物からスマホ出しておきます……」
涼子は慌てて自分の鞄からスマートフォンを取り出し、連絡先を交換した。
あの高柳壮一郎と連絡を交換する日が来るなんて、少し前の自分には想像もつかなかった。
ベッドに横になり、やわらかな枕に頭を沈めると、すぐにまぶたが重くなってくる。結婚式の緊張感と、人混みの疲れが一気に押し寄せ、意識が遠のくのがわかった。
朦朧とする意識の中、ふとベッド脇に壮一郎が近づく気配を感じた。
「……涼子、寝付けそうか?」
どこまでも穏やかな低い声。彼の言葉に頷こうとして声にならない。眠気が勝っていた。
温かな手が額に触れるような気がした。それは医者としての手つきなのか、それとも——。夢とも現実ともつかないまま、涼子は深い眠りに落ちていった。