すべての愛を君だけに。

回転式ヤスリに親指を添えて火を付けようとするが、何回しても上手くつかない。






「…くそっ」






ライターを床に叩きつけて、その場にしゃがみ込む。


髪の毛をガシガシとめちゃくちゃにする。


…明日から
どんな顔して雨に会えばいい?


雨の気持ちを知る前の俺たちに戻れるだろうか。






「……?」


「………」


「歩ってば!!」






モヤモヤした気持ちは晴れるわけないまま、呼びかけの声に現実に引き戻される。


リビングのソファーで座っていたら、後ろから頭を強めに叩かれた。


振り返れば風呂から上がってきた沙織の姿があった。


両手に1本ずつビール缶が握られている。


< 128 / 393 >

この作品をシェア

pagetop