すべての愛を君だけに。
回転式ヤスリに親指を添えて火を付けようとするが、何回しても上手くつかない。
「…くそっ」
ライターを床に叩きつけて、その場にしゃがみ込む。
髪の毛をガシガシとめちゃくちゃにする。
…明日から
どんな顔して雨に会えばいい?
雨の気持ちを知る前の俺たちに戻れるだろうか。
「……?」
「………」
「歩ってば!!」
モヤモヤした気持ちは晴れるわけないまま、呼びかけの声に現実に引き戻される。
リビングのソファーで座っていたら、後ろから頭を強めに叩かれた。
振り返れば風呂から上がってきた沙織の姿があった。
両手に1本ずつビール缶が握られている。