迎えにきた強面消防士は双子とママに溺愛がダダ漏れです
「怒られちゃったな」

「そうですね」

 猫のあるある話などをしているうちにポワッタビジューの近くまでやってきて、幹線道路の横断歩道を前にして足を止める。

「私はこっちに」

「俺はあっちだ」

 互いが示した方角は反対だった。手を広げてひらひらと振ると橙吾さんも穏やかな笑顔と共に返してくれて、別れ際に特に何かあるわけでもなく流れるように解散した。

 立ち話をしていたせいか外気にさらされた身体が冷えていて、ぶるっと肩を震わせた。橙吾さんと一緒にいる時はまったく気にならなかったのに。

 夢心地のような度重なる偶然によって彼と過ごした時間が、ひとりになった今になってじわじわと実感を引き連れてきている。

 不思議なことがあるものだ。

 心地いい余韻に浸りながら再び歩みを進めた。

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