迎えにきた強面消防士は双子とママに溺愛がダダ漏れです
「橙吾さんしか見舞いに来てくれないし、筋トレもできないし、身体を動かさずにできる趣味も持っていないし、暇でしかたなかったです」

 二十九歳の佐橋は防救助機動部隊の選抜試験に合格したのが去年で、同時期に恋人と別れている。生活リズムが合わず、あなたとの将来を考えられないと言われたそうだ。

 彼女の言い分はわからなくはないけれど、相手を幸せにするために仕事を変えるなんてできないし、だったら別の人と安定した生活を送ってもらうのがいいと俺は思う。まあ、そんな考えだから長らく女性とのかかわりがないのだけれど。

「なまっていそうだから、今日は無理するなよ」

「そうします。ありがとうございます」

 事務室に入ってすでに出勤している同僚たちに挨拶をし、早々と外に出て車庫の前に並んだ。佐橋も同じようについてくる。

「ところで、ケーキ屋のあの子はどうなりました?」

 業務開始は八時半からなので、まだ人は集まっていない。とはいえ気を使っているのか、佐橋は俺にしか聞こえない囁き声だ。
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