迎えにきた強面消防士は双子とママに溺愛がダダ漏れです
「橙吾さん、気をつけて帰ってくださいね」

「ありがとう。着いたら連絡―」

 同時に「あ」と声を漏らした。桃花さんに名刺を渡してからメッセージも電話ももらっていない。

「部屋に入ったら連絡します」

「そうしてくれるとありがたい」

 どちらともなく微笑み合って、俺が一歩うしろに下がる。桃花さんは手をひらひらと振って、建物のなかへ消えていった。

 桃花さんの言葉や表情を脳裏に反芻しているうちに、気づけば自分のマンションに着いていた。どうやって帰ってきたのかあまり記憶がない。

 これが平和ぼけというやつか。

 胸や頭が幸福感でそわそわしていて身体が軽く感じる。

 部屋に入ってスマートフォンを確認すると桃花さんからメッセージが届いており、幸せを噛み締めるように目を瞑って頭を仰け反らせた。

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