イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。
1.嘘の始まり
「……あんのクソババア」
静かな、誰もいない自宅。テーブルには大量の空の酒瓶。その隣には……私の名前が書かれた借用書。
もちろん、誰かにお金を借りた覚えは一切ない。となると、これはアル中の母が私に押し付けた借金という事になる。
とりあえず、あの女の顔を殴りたくなった。
私の家族は恥ずかしいくらいに酷かった。中学時代に母の浮気がきっかけで父と離婚し母と二人暮らしになった。と言っても、父も浮気していたことは私も知っているが。
私は、受験勉強を死ぬ気で頑張り、ようやく大学生になれた。そして大学入学と同時に一人暮らしをするはずだったが、母に懇願され二人暮らしから抜け出せずそのまま大学に通う事になった。
母は、仕事をせず浮気相手と遊んでは酒に溺れるろくでなしだった。私がバイトで稼いだお金も持っていかれ、ギリギリの生活だった。
自分の母だから、血の繋がった家族だから、そう自分に言い聞かせて注意するくらいだったんだけれど……
「はは……馬鹿だなぁ……」
母にとって、私はその程度の存在だったのだろうな。と、つくづくそう思ってしまった。
私は、借用書に目を背けるようにして風呂に向かい……冷たいシャワーを浴びることにした。頭を冷やそう、と。