イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。

 三時間で50万、ホテルレストランのディナー付き。

 そんな美味しい話なんて、私の頭の中ではそれしか出てこない。三時間で50万だなんて、時給いくらよ。しかもホテルのディナー付きって、夕飯代が浮くどころかすっごく美味しそうな夕飯にありつけられるって事だ。これはさすがに怪しすぎる。

 けれど、それを提案した彼女は私が貧乏だという事をよく知っている。お金に関する事は、絶対にからかうなんて事はしない。となると、これは真面目に提案しているという事だ。


「違う違う。お見合い代行で断ってくるってだけの仕事だよ」

「……それ、アンタに来たお見合いでしょ」

「あはは~、はい」


 あははじゃないわ。ちなみに言うと、この子はとある中小企業の会社の社長を父に持つ、いわゆるお金持ちだ。何とも裕福なお家育ちの為、お見合いなんてものも普通に来る。


「だってパパがさぁ、もうその年なんだから結婚も考えなさいって言って煩いのよ~。だから勝手にお見合いをいくつも持ってきてこっちは困ってるの! だからさ、お願いっ! 断ってきてっ!」

「本音は?」

「……その日、ライブがあるんです、はい」


 あぁ、なるほど。そういう事か。と、呆れて遠い目をしてしまった。この子は、K-POPのとあるアイドルにハマっている。結構人気のアーティストらしくて、ライブチケットも倍率が凄いらしい。確か、すごく良い席を手に入れられたって騒いでいたな、数日前に。

 お願い~! と、私の腕に抱き着いてくるが……もう私の頭の中には、その50万でいっぱいだった。チャリンチャリンと音が鳴ってるような気もする。


「はい、やらせていただきます」

「やったぁ! やっぱり持つべきは友ね!」


 その友達を利用して自分は楽しみに行くという事を分かっているのだろうか。まぁ、でも確かにいいバイトなんだし、ありがたくやらせていただこう。だって、断ってくればいいのよね? なら簡単よね。

 そして、琳には詳細を聞きつつも気合いを入れたのである。

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