イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。
「身の程知らずな事するからこうなるのよ。どうせ、理想と違ってそっちに目移りしちゃったんでしょ? 湊君忙しくて中々会ってもらえなかったんでしょ? 湊君にとって貴方はその程度の女って事よ。私が言ってあげなきゃ分からないなんて、馬鹿にも程があるわ!」
「……」
「でも学生ですものね。大人が教えてあげなきゃ分からないか。あのね、付き合う相手は自分に相応な人を選ぶの。そうしなくちゃ、自分が惨めに見えちゃうからよ。ほら、まさに今のあなたの姿よ」
……確かに、私にとって湊さんはおこがましい相手だと思う。でも、それは……本当に付き合っていたのなら、の話だ。
「人のものに手を出すからそんなことになるのよ」
「え……」
人のもの……? 人のものって……?
「私達、もう結婚決まってるの」
人を見下すかのような、勝ち誇ったような視線を向けてくるけれど……耳を疑った。
じゃあ……あのお見合いって? 結婚が決まってるなら、どうしてお見合いなんて話が出てきて、湊さんはあの場にいたの……?
どうして、私に彼女役のアルバイトを提案したの……?
「まだ秘密だけど、もう話はついてるのよ。どうせあなたが彼女になったのも、汚い手使って仕方なく、でしょ? あまり会ってもらえないのもそういうことよ」
「……」
「どうしたの? そんなに驚いて。もう新しい男手に入れたんだから別にいいでしょ。なら早く別れたらいいじゃない」
分からない……これってもしかして、ハッタリ? だって、私そんなことしてないもん。なら、どういうこと……?
その時だった。玄関の方から音がしてきた。湊さんが戻ってきたのか、と思っていた時。目の前の早瀬さんは近くにあったコップで水を汲み始める。一体何を……と思っていた時、自身の顔面に向かって思いっきり水をかけた。
「ごめんなさいっ……! 瑠奈ちゃんっ!」
「っ!?」
彼女がコップを私の近くに置き、そしてそう叫んだ。それは、湊さんがリビングに入ってきたタイミング。
きっと、彼にはこう見えただろう。私が、早瀬さんに怒って水をかけたのだと。
「そうだよね、湊君と馴れ馴れしくしちゃってたよね。ごめんなさい。彼女なんだもん、不安になるのは分かる。だから、プライベートでも湊君に話しかけないって約束するから、だから……」
まるで、ドラマのワンシーンを見ているようだった。涙ぐみ、私に許しを請う彼女の姿は、名演技と言っていいと思う。けれど、それどころじゃない。これでは、アルバイトとして違反行為になってしまう。
ただでさえ、湊さんに私が浮気しているのではないかと疑われてしまっている可能性があるというのに、更には彼の友人に怒って水をかけるだなんて……罰金まで、支払わなくてはならないのでは……?
それに……もし、早瀬さんの話が本当なら、婚約者に水をぶっかけたんだから怒るに決まってる。
けれど……何故か、こう思った。湊さんにだけは、勘違いをしないでほしいと。
彼は……一回ため息をして「ちょっと待ってろ」と部屋から出ていった。タオルを取りに行ったのだろうけれど……これは、やってしまったのでは?
隣の早瀬さんは、私に向かって勝ち誇った顔を向けてきた。
戻ってきた湊さんは、タオルを早瀬さんに渡すけれど……私に遠慮するように受け取ることを躊躇する仕草をしていた。
「使え」
「……いや、いいよ。もう帰るだけだし」
「返さなくていいから持ってけ」
「でも……」
警察官じゃなくて女優を目指した方がいいのではと思ってしまうくらいだけれど、彼に視線を向けられない。今、彼は私の事を、どう思っているのだろう。こんな事をする奴だと幻滅する? アルバイトとして私を採用する事を間違ったとでも思ってしまった?
そして彼は、タオルを早瀬さんの頭に乗せていた。けれど……
「早瀬はさっさと帰れ」
「……え?」