イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。
「病人は寝た方が治りが早いからな。おやすみ」
頭に手が乗り、撫でる手が優しく感じて……顔がどんどん火照ってくる。耐えられず布団を顔まで被ってしまった。
もう、40度まで上がったんじゃない……? 余計悪化してるよぉ……
そう、思っていた時だった。
ぐぅぅぅ……と、空気の読めない音が、布団の中から聞こえてきた。
は、恥ずかしい……
「ふはっ、腹は元気か」
「……もう元気なんで、帰ってください」
「腹が減ってるなら安心だ。もう飯は出来てるから持ってくる」
全然話がかみ合ってない……いや、無視してる……?
はぁ……と内心ため息を吐きつつ、近くにあったスマホに手を伸ばした。そして、絶句した。通知に来ていた、琳からのメッセージ。
『洗濯物はちゃんと片付けておいたから安心してね♡』
ですって……?
部屋干ししていた、私の洗濯物、何を干してたっけ……と思い出し、琳に全力で感謝した。危ない……下着だった……とりあえず、その煩い♡は許そう。
「おい瑠奈、熱上がったか?」
「……お気になさらず」
「いや、気にするだろ」
さっきよりも顔が赤くなっていたところで、湊さんが食事を持ってきてしまった。危ない、数秒早かったらきっとこれ以上に恥ずかしかったと思う。もっと熱上がっちゃうよ……
起き上がれるか? と聞かれ、よっこいしょと上半身をゆっくり起こした。
「湯豆腐……?」
「そう。生姜も入ってるから結構効くぞ。矢野家はいつもこれで風邪を治してきたからな」
「へぇ……」
実家の味、というやつか……
でも、何だろう……ねぎと卵入りの湯豆腐……何となく、覚えがあるような……?
お料理上手な湊さんの作ってくれた湯豆腐は、期待を裏切らずとても美味しい。治りかけではあるけれど、味覚があってよかった……身体が温かくなって、とっても美味しい。
「……湊さんの作る料理、って、実家の味、ですか?」
「まぁ、お袋に手伝わされてきたからな。そうとも言える」
へぇ……私、実家の味なんて覚えてないな……離婚してからは母はキッチンに全く立たなかったから、ずっと私が作っていたし……
だから、余計かな。とても美味しく感じる。温かい、な。
「……どうして、警察官になったんですか?」
「ん?」
ふと、そう聞いてみた。こんなに料理が美味いなら、料理人もいける気がするし……
ちらりと湊さんに視線を向けると、風邪薬の箱を持ちつつ考え出している彼が見えた。こういう職業って、何かを志している人ばかりだろうし……
「そう、だな……きっかけは、お前みたいなやつが警察官にでもなれたら大したものだと冗談で言われて頭にきた時。で、親戚の警察官にそれがバレて、勧められたのが始まりだな」
「へぇ……」
なるほど、そういうパターンもあるんだ……
その歳で警視なんだから、警察官に憧れて、とかそういう理由だと思ってたんだけど、そうじゃないんだ……
もしかして湊さんって、負けず嫌い、とか?
「でも、警察官の道を選んでよかったと今は思ってる。危険な仕事ではあっても、自分が国民の為に貢献出来ていると実感出来るからな」
「……」
「まっ、経験を積み重ねていくたびに面倒なことは増えるけどな。今もそう」
「……そんな警察官のお役に立てて光栄です」
「国民のお前に嘘をつかせてるけどな。だが、嘘も方便とも言うし、借金で困ってる国民のお前の助けにもなってる」
「……」
私はこれをどう返せばいいのだろうか。確かに嘘も方便と言うけれど……嘘を吐く相手もまた警察官だ。
借金返済の足しになるからありがたいのはありがたいけれど、ちょっと、いやだいぶ心が痛い。