幽霊姫は止まれない!
 どれをとっても王族としてあり得ないことだろう。

 仮の身分を偽るなら色は変えるべきだし、もしバレても構わないと思っているのならば彼女の唯一の騎士であるオスキャルの恋人なんて名乗るべきではないのだから。

「ず、ずるいですわ、こんな、こんな……」
 一拍遅れて口を開いたイェッタが、小刻みに震えながら後退る。
「ずるい? 何がかしら」
「だってそんな、こんなの、あり得ない、だって引きこもりって」
「えぇ。姫としてはずっと引きこもっていたの」
「権力で国の宝であるソードマスターを縛り付けるような、そんな」
「傲慢で怠惰な幽霊に取られて悔しい?」
「ッ」

 彼女が口にしにくいだろうことをハッキリと口にすると、イェッタが顔色を悪くして俯いてしまう。
(そんな顔、させたいわけじゃないんだけどな)

 傲慢で怠惰。引きこもりで公務をサボる私は嘲笑を込めて幽霊と呼ばれているけれど。

「確かに護衛騎士にオスキャルを選んだのは私よ。そして王族から指名されれば大抵の騎士は断れない。もちろん拒否権はあるけれど、拒否してしまってはその先の未来は不敬罪で消えてしまうものね」
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