幽霊姫は止まれない!
 もちろんオスキャルも本気でそんなことを思ってはいないだろうが、状況が後押ししてそんな考えが頭を過っていてもおかしくない。……私のように。

「体調が回復したなら、気分転換がてらボクと一曲いかがですか?」
 にこりと微笑んだミック公爵令息が私の方へと手を差し出す。その手を取らずに断ろうと口を開くが、すかさず彼が言葉を重ねた。

「まさか、ダンスまでは断られませんよね?」
「……その言い方、ズルくないかしら」
「でも、事実ですから」
 ふっと笑う彼に苦笑した私は、一瞬迷ったものの首を左右に振った。

「ごめんなさい。体調がまだ万全ではないの」
「そうですか。それなら仕方ないですね」
 私のあからさまな言い訳に嫌な顔をすることなく彼は差し出した手を下ろし、私の隣へ並んで立つ。

「お心が広いようですね」
 そう口を開いた彼が見ているのは、真っ赤な顔でオスキャルを見つめながら踊るイェッタと、多分ダンスに必死すぎてそんなイェッタには気付いていないオスキャルだ。

「まさか。本当はこんな命令したくなんてなかったわよ?」
「ですが結果は、この状況ですよ」
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