幽霊姫は止まれない!
 こんなことで自覚させないで欲しいのに、胸が痛いのはやはり彼を好きだからなのだろう。
 早く忘れてしまわないといけないのに、今から自分が望んでサイラスを紹介して貰うつもりだというのに、彼女たちに『勝手な事を言わないで』と対峙する権利がもうないことが、悔しいだなんて。
 
「本当に、自分勝手だわ」
「え。もしかして本当に気分で捨てちゃったの?」
「……えっ?」

 突如真後ろからの声に驚き、後退りしながら振り返ると、そこにいたのはカッチリとした白い礼服に身を包んだ、淡い金髪の男性だった。
 前髪の半分だけを上げたその髪型は、柔らかく細められた赤い瞳と相まってどこか幻想的。よく見るとアメジストを使ったタイピンやカフスボタンなど細部に紫がいくつも取り入れられているのは、我がリンディ国の王族の色を意識しているのかもしれない。

 それらのどの宝石にも見劣りしないそのルビーのような瞳がまっすぐ私を射抜くように見つめられると、思わず口だけをはくはくと動かしてしまう。

(こんなに麗しい男の人、見たことないわ)
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