幽霊姫は止まれない!

第百一話 頼る相手、頼れる相手

 ファッシュ公爵家は王妃であった実母の実家であり、そして母の弟である当主は現宰相も兼ねている。
 重厚な石造りの邸宅は威厳に満ち、整然と手入れされた庭園の奥には控えめな噴水と花壇が配されていた。屋根の棟には家紋の刻まれた旗がひらめき、派手さはないものの王妃の実家らしく、そして宰相をも輩出する知性と威厳を兼ね備えた公爵家としての格式と力が邸宅全体から静かに伝わってくる。

 その精悍なたたずまいに、思わず私はごくりと唾を呑んだ。

(会うのは初めてね)

 ファッシュ公爵家からの茶会の誘いは過去にもいくつも貰っていた。けれど私が参加したことは一度もない。
 それは単純に私が『幽霊姫』という体裁でいるために断っていたからというのももちろんあるが、一番の理由は叔父にどう思われているのかが怖かったからだ。

(姉を殺した相手のことを、どう思っているのかしら)

 同じく体裁のために欠かさず招待状を送ってくれていることは知っている。むしろ、私への招待状を送ってくれる相手なんてファッシュ公爵家くらいしかなかった。
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