青い便箋

 「こんな展開になるなんて、思っても見なかったね」
 紀子は、歩きながらしみじみと呟く。
 「ほんと、信じられない。私、まだ足がガクガクしてる」
 「また転ばないでよ」
 「転んだらまた、陸上部の副部長が登場するって」
 美穂が冗談を言って笑い出す。
 「でもさ、高杉先輩って、いい先輩だね。紳士的っていうかさ…本当によかったね、遥香」
 紀子の言葉に、遥香はまた涙が込み上げそうになった。
 「私さぁ、陸上部の副部長…結構タイプだったかも…」
 祐子がボソッと呟いた。
 「え?ウソ?!なんで今ごろ言うのよ!」
 遥香の涙は一瞬で消え去り、驚きすぎて、何故か怒る。
 「いやいや、好きって言うか…ああいう真面目に冗談言う人、なんかいいなぁって…」
 「言うの遅いよ!まだいるかもしれないよ。戻る?」
 「違う!そういうんじゃないから!大丈夫。帰ろ」
 「へぇ〜…祐子って、そういう感じが好みなのかぁ」
 紀子が興味深そうに、さらに深掘してきそうな流れを断ち切るように、
 「ねぇねぇLIVEの前、お昼ご飯、皆で食べようよ」
 祐子は話題を変えて、慌ててごまかす。
 「マジで着てく服ないな…」
 美穂がまた洋服問題を蒸し返した。
 「ねぇ、これから服見に行かない?」
 「いいねぇ!行こ行こ」…

 華やかに彩られた校門を抜け、風に揺れる沈丁花と蔓日々草に縁取られた道を、時々列が乱れながら、楽しみで胸がいっぱいの女子達は弾みながら歩いていく。

 先輩との最後の日になるはずの今日が、もう少しだけ先に延びた。また会える。本当の最後の日は、先輩の声を聴きながら終わることができる。夢を叶えて終われるのだ。
 
 それは、相当に勝手な片想いだったけど、思い残すことはないと今、はっきり言える。悔いはないと胸を張って言える。
 この先、素敵な思い出となった先輩とのあの数分間を胸に、虚しさを感じることはもうない。
 もし、感じることがあるとしたら、それはきっと淋しさだ。
 でも、そんな時は、自分に見せてくれた先輩のあの笑顔を思い出せば、前に進める気しかしない。
 
 遥香は、笑い声の響く中、ふと空を見上げた。
 そして、その青い便箋に綴る。

 先輩、ご卒業おめでとうございます。
 最高の素敵な時間を、ありがとうございました。

─ End ─
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