青い便箋
 この辺りでは、横崎高にすごいボーカルを率いたバンドがあると、他校へ噂が流れるほどである、高杉先輩率いる「BREEZY」。

 入学早々、軽音部主催で「新入生歓迎ライブ」が生徒自由参加で放課後に開かれた。
 遥香は前の晩、嬉しすぎて眠れず、ナチュラルハイのまま、歓迎されに出向いた。
 「ようこそ、横崎高へ!一緒に楽しもうぜ!」
遥香は、軽音部長のこの言葉に鳥肌が立ち、横崎高に入れたんだという実感と喜びが湧き上がった。
 軽音部長の言葉が始まりの合図となり、一気に体育館中の観客は熱狂の渦に巻かれた。
 3組のバンドが数曲ずつ、誰もが知っているであろう有名曲を演奏し、盛り上がりもさらに加速していく中、高杉先輩のBREEZYは今回もトリを飾った。
 再び高杉先輩の歌声を聴くことができ、高杉先輩から最高の入学祝いを受け取った気分で、遥香はこの学校に入れた幸せをしみじみとかみしめた。
 最後の曲が終わり、
 「新入生の皆、入学おめでとう。この学校でたくさん楽しんで思い出作って下さい!ちなみに我がバンド【BREEZY】は、ライブハウスでも時々活動しているから観に来てね!」という言葉と神スマイルを残し、ライブはお開きとなった。
 遥香は、もう既に他の新入生の100倍楽しんでいます!と叫びたい衝動を抑えた。
 余韻に浸りながら、先輩の残した言葉をリピートする。
 学校以外で高杉先輩を見られるって…?
 遥香の夢が一瞬で膨らんだ。安易に喜んだ遥香だったが、近くで友達と話していた2年生の会話を聞いて、すぐにその夢は萎んだ。
 遥香は恐縮しながら、その近くにいた2年生の先輩に詳しい話を尋ねた。
 その2年生の話によると、実際それを見に行けるのは、バンドメンバーの友人・知人・軽音部員、またその紹介の身内中心。学校関係以外の一般客も来るため、ライブ好きな常連客がいるらしく、宣伝しなくてもすぐにチケットはSOLDOUTなのだそうだ。チケット代そのものは千円くらい。希望しても行けない者がほとんどらしい。予算の都合上、いつも利用しているライブハウスの箱が小さいため、すぐに満員になってしまうとのことだった。その2年生の先輩も行ったことはないと言っていた。多分、今の2年生は軽音部員しか行ったことないんじゃないかな?と。あんなふうに言われても行けないんだから、宣伝しなくていいのにね。という不満も教えてくれた。
 教えてくれた2年生の先輩に礼を告げ、がっくりと肩を落とした。
 なんだ…同じ学校でも難しいんだ…
 知り合いにならなければ、チケット入手は困難ということか…これから友達が増える中で、軽音部へ入部するクラスメイトと仲良くなれば、きっと行けるチャンスが来ると前向きに考えていたが、それは甘かった。遥香のクラスには軽音部に入ったクラスメイトはおらず、のちに遥香が入部する部活の3年生の先輩には、恐れ多くてとても聞くことは出来なかった。
 卒業式を迎えるこの日まで、何の伝手を作れることもなく、BREEZYの単独ライブに行けなかったことが、遥香がこの1年で思う一番の心残りだった。

 
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