裏社会の私と表社会の貴方との境界線

話し合い

ガチャ。


ちょうど全員の自己紹介が終わった頃に、青菜先生が入ってきた。


「どのくらい進んだかな?」


「もう終わっちゃいましたよ」


香宮夜がそう答えると、青菜先生は「あちゃー」と言って謝った。


「ごめんね、隣の部屋の準備してたから…。あ、でもすぐ使えるようにしたからチャラで!ほんと、ごめんね!!」


私達は顔を見合わせる。


青菜先生は、ちょっと面白い先生だ。


若いせいもあるのか親しみやすい。


「大丈夫ですよ、問題なかったですし。それより、ここは任せて僕達は相談室に移動してもいいですか?」


真白の質問にうんうんと頷く青菜先生。


それを聞いて「じゃあ移動しよ」と真白が出て行き、白綾も香宮夜も少し呆れながら後に続いていった。


「僕達も行くでいいよね?」


あまりやることを理解していない来夢組と私は、確認をしてついて行くことにした。


「何すればいいかよく分からないし、とりあえずついて行きましょ」


足手まといになるわけにはいかないからね。


***


「真白、説明お願いできる?」


流石に知らない状態で話を進められたら困るので、説明を頼んでみた。


普通の声で喋っていれば、耳のいいメア家の人は勝手に盗み聞きしてくれるだろうと思って声はかけなかった。


言い方が悪いのは気にしないでほしい。


「ああ、いいよ。この相談室は僕達生徒だけが入れる部屋で、部屋名通りで相談し合うんだよ。まあ使わない人がほとんどだけど」


今回は一応白綾・香宮夜ペアと協力することになっているので、使うことにしたのだろうと察した。


それと、あまり使わないことで慣れていなくて、青菜先生が準備に時間がかかったのかと納得する。


普段は共同なんてする人が少ないせいだろう。


「そういえば、さっきので何か分かったの?」


真白は私よりも事件を見てきてやってきたので、もしかしたらなんらかの収穫があったかもと期待した。


「もちろんさ。部屋で過ごそう」


***


みんなが席に着き、話し合いを開始した。


「それじゃ、1つ1つまとめていこうか。いつも通りでいいよね斗亜?」


本当に一緒によくやっていたようだ。


まあ、今はその方が早く話を進められるし好都合かもしれない。


真白達が変わり者だったというだけだ。


「そうだね。お願いするよ千智」


「りょーかい。じゃあ、まずは紗倉さんについてだね」


「紗倉さんは被害者の1つ下の学年、大学3年生で蓮林さんの友人。間谷さんとの接点はあまりなくて、蓮林さんを殺す理由はないよね…」


私はいつも持ち歩いている仕事用の手帳に、書き込んでいく。


何かに使えたらいいなと思ったからだ。


「待って、紗倉は蓮林とは結構な仲の友人だよ。それと間谷とも接点があったはず。僕達が部屋を出る時に何か言いたげな表情してたからね」


(そんなことが分かるなんて、エスパーなのかしらこの人は)


ちょっと怖いな、と思ってしまった。


いつか私達が裏社会の人間だとバレてしまいそう。


「じゃあ後で確認しに行こっか。次はー、亜由望さんね。蓮林のことを間谷と一緒にいじめていた…おそらく主犯格の人だよね。犯人の可能性もありそうかな…?」


「まあ合ってると思うけど…。2人が相打ちの可能性もあるって考えてよ?」


真白に指摘されると「あー忘れてた!あはは!めんご!」と言って面白そうに笑った。


この状況で本当に能天気な人だ。


「ほんじゃ次は生徒会長の西園さんね。深い関わりはないけど、いじめの件で関わってると。でも他に隠してる可能性もあるから、後で徹底的に聞き込みしないとね〜」


きっと今までそういう犯人がいたのだと思う。


穏やかな人ほど、裏の顔があったりするものね。


人間なんて大抵がそんなもんで信用なんてできない。


まあ、私が言えることではないのだろうが。


「うん、そうだね。次お願い」


「次は学年2位をキープする優秀な夏希さんね。学科も違うから接点がない。けど名前は知ってるみたいだったよね?なんでだろ〜、有名とか?」


「そこは気になるね。後で聞き込みをしよう」


有名なら名前ぐらい知っていてもおかしくはないけど、学科も違う全く接点がないのに知っているのも不思議な話だ。


まあ、悩むより知っている人に聞いた方が確実だろう。


「はいはーい、最後に学年3位キープ学年代表の悠目さんね。彼女はまあ2人とも接点なしらしいけど、それだとあそこに呼ばれた理由がないよね。こりゃー聞き込みですな」


確かに本当に接点がないならあそこにいるのはおかしい。


容疑者候補としてもいるはずなのに…。


そうなると夏希さんもか。


なんだか悠目さんと夏希さんが怪しく思えてきた。


***


次に、私達は証言が本当かどうか確かめるために、情報集めの聞き込みをすることにした。


別館に来た時の車に乗って、本校に向かった。


「そういえば、雨晴はさっき何を書いてたの?」


相談室でみんなで話をしていた時のことだろう。


私はスカートのポケットから手帳を出して、メモを書いたページを開いた。


「これでしょ?使えたらと思って会話をまとめて書いたのよ」


真白にページを見せると、驚いた顔を見せた。


「これ、分かりやすいね。よかったらもう少し見せてくれない?」


分かりやすいと素直に褒められて、嬉しくなった。


なかなか褒められることがないからだろうか。


「いいわよ。本校の方に着いたら返してね。それと、他のページは絶対に見ないでね!」


私はそう言って真白に手帳を貸した。


他のページを見られたら、私が裏社会のマフィアということがバレてしまう危険性があった。


なぜなら、その手帳にはターゲットの情報や仕事の時間などがびっしりと書かれているから。


けれど、真白は私の言うことを守ってくれると確信していたので貸した。


なんだかそんな気がした…だけ。


「もちろん。ありがとう」


真白は手帳を受け取ってから、真剣に読み込んでいった。


集中すると周りが見えなくなってしないそうなタイプだ。


ちょっと危なっかしい。


「何やってんの、ほんと…」


レンに文句を言われたが、聞こえないふりをして無視をした。


***


「はいはーい!着いたよ!」


白綾の声がかかって、着いたのだと分かった。


確かにここは私達が初めに来たところだった。


「じゃあ、ここからはペアに分かれて聞き込みをしよう。その方が効率もいいしね」


真白の意見によって、それぞれペアで聞き込みをすることになった。


私達が担当するのは紗倉さんについて。


正直疑いがある悠目さんや亜由望さんを担当したかったが、こればっかりは仕方がない。


「これ返すよ。ありがとう、全部暗記した」


(うん…もうなんか驚くのも馬鹿馬鹿しい)


真白の暗記力はどうなっているのやら。


私の暗記力が低いだけなのか、と思う。


そうなのかもしれない、だったらこの機会に鍛えておかないと。


「ええ、それはよかったわ。それじゃあ聞き込みを開始しましょうか」


***


私達は早速、普通科の3学年の講堂に来た。


今日は火曜日なので普通に講義があるが、事件があったことで授業はなしになったそう。


けれど、生徒達は聞き込みのために来てくれている。


それだけスカイ学園の権力がすごいという証拠だ。


「僕達も二手に別れよう。終わったらここに集合、でいい?」


こくりと頷く。


「始めようか」


そう言われて、私達はそれぞれ分かれて聞き込みを開始した。


***


聞き込みが終わり、集合場所に戻ってきた。


時間がたっぷりあったので、少しだけ紗倉さん以外の情報も集めておいた。


時間を無駄にしたくないからね。


「終わった?」


不意に真白から声がかけられる。


どうやらちょうど真白の方も、聞き込みが終わったようだ。


「終わったわよ。えっと…どこで話す?」


流石にこんなに生徒達がいる中で事件の話をするのは気が引けるので、どこか別の場所に移動したい。


真白には私がそういうと分かっていたようだ。


「隣の部屋使っていいって。さっき先生に許可取ってきたから」


さすが行動が早い。


こんなに優秀なペアがいれば、何も苦労しなさそう。


でも、負けず嫌いな私は真白よりいい成績を叩き出してやろうと、やる気スイッチを入れた。


***


隣の部屋に移動した私達は、集めた情報を整理した。


紗倉さんは普段から蓮林さんとは一緒に行動していたようで、付き合っているのではと噂があったようだ。


それほど仲がいいという証拠だ。


ちなみに、付き合ってはいなかったらしい。


蓮林さんのいじめの件については、何も知らないというのは周りから見ても明らかだったようだ。


間谷さんとは関わっているところは見たことがないという。


ただ、1人の生徒からいい情報をもらった。


間谷さんと紗倉さんが喋っているところを見たことがあるという。


なんだか言い合っているようにも見えたのですぐに立ち去ってしまったと。


なので内容までは聞いていなかったそうだが、それでも私達にとっては有力な情報だった。
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