裏社会の私と表社会の貴方との境界線

友達は名前呼び

みんなの視線が痛いので、私はまず千智と紺凪との出来事から話すことにした。


***


「お互いに名前呼びにする?」


「うん!!」


友達になるという話が終わってすぐに、千智は名前で呼び合うことを提案してきた。


私にとって特に抵抗がある事ではなかった。


親しいメア家の人とはすぐに名前呼びに慣れたし、問題ない…はず。


でも、なんだか気恥ずかしかった。


「え〜?なんか…恥ずかしくない?」


「全然?むしろ親しい感じがして、僕は好きかな」


気恥ずかしいのは私だけみたいだった。


千智だけでなく、紺凪も賛成していた。


「ねぇ〜呼んでよっ!」


千智は目をキラキラさせて、私を見つめていた。


構えられると言いにくいのだけれど。


押しに負けて、私はすごく小さい声で言った。


「…っ…ち、千智」


「きゃ〜!!うれしいっ!!」


千智は私が名前で呼ぶと、飛び跳ねてとても嬉しそうにした。


こんなに喜ぶのかと、少し驚いた。


「僕は?」


紺凪は千智だけずるい、と羨ましがった。


「よ、呼ぶよ?…紺凪」


「うん、上出来」


紺凪も今まで見たことのない、とても嬉しそうな笑顔を見せてくれた。


***


「っていうことがあって…あら?みんなどうしたの?」


3人とも変な反応をしている。


ユウはちょっと怒っていそうで、ツキは考えこんでいるし、レンはちょっと焦っている。


なんだろうこの居心地の悪さは。


3人の考えていることが、まるで分からない。


そして、どう話を始めればいいのか迷う。


何をすれば正解だろうか。


散々頭を悩ませた結果。


「えーっと…その、大丈夫?」


よく分からないけど、とりあえず聞いてみた。


誰か何か言って、と願いながら。


最初に口を開いてくれたのは、ユウだった。


「まあ、とりあえず置いとこーぜ。それより会議だろ?」


話を戻してくれたので、とても助かった。


ツキとレンに同意を求めるように見つめると、2人ともコクンと頷いてくれた。


(よかった…)


雰囲気が戻ったところで、話を再開した。


「それじゃ、次はツキ」


「僕、か。…僕もめぼしい情報は集められてないよ。でも、1つ気になることがあるんだ。関係あるかは分からないけど」


はて、気になることとはなんだろう。


情報が集まっていないのなら、疑問に思うのはユウと同じ内容では?


「少しでも情報がほしい。ツキ兄さん、話してみて」


レンに言われると、ツキは素直に話し始めた。


「ん。悠芽家のことだけど、サク兄さんが関わってることが分かったよ」


「サクが?!どういうこと…?」


ナイトメアと全く関わりのない家と、何があったの?


サクは、そんな意味もなく行動するような男じゃない。


つまり、何かの作戦のため。


裏で何か計画を進めているのかも。


「悠芽家を潰したのはサク兄さんだった。今回の事件も、サク兄さんが作り出したものだったんだ」


「「「っ…?!」」」


***


私達は息を呑んだ。


だってまさかあの事件にナイトメアの関わりがあるなんて、考えもしなかったから。


普通ナイトメアが関わった事件には、証拠が一切残らない。


何もかもが完璧な組織って感じ。


けれど、考えてみれば今回は調べれば単純な事件だった。


まるで素人の殺人。


悠目さんはもとは裏社会の人なのに、腕が落ちただけ?


つまり今回の事件は、サクが意図的に証拠を残したということだ。


そうだ、あの時の言葉がずっと引っかかっている。


言い方が変だった。


何か関係があるのだろうか。


「サクに連絡したときに、あの人『瑠璃華と羅華に会うといい。待ってるからね』って意味深なことを言ったのよ。何か関係があると思う?」


1人で分からない時は、人を頼るのも大切なこと。


サクは私達の姉弟関係に、ほとんど興味がないはず。


私には興味があるみたいだけど。


でも、瑠璃華と羅華の話題を出した。


そこが不思議だったのだ。


「関係ならあるんじゃない?サク兄さんは意味ある行動しかしないよ」


珍しくレンが意見を出してくれた。


サクのことになると話してくれるのは、変わりない。


1番サクと近しい存在であるレンが言うのだから、そうなのだろう。


問題は「そこになんの意味が込められているか」だ。


「瑠璃華と羅華に何かしてんじゃね〜?」


「ちょっとユウ、どういうことよ?」


私は少し焦りながら聞いた。


何かあったと想像するだけで、ゾッとするから。


もし身の危険が迫っているという話だったら。


「例えば、2人が死にかけてるとか?」


「ふざけてんの」


私はとうとう本気で怒った。


私の妹と弟が簡単に死ぬわけない。


でも、もし本当に何かよくないことになっているとしたら…?


怒ってるんじゃない、不安をぶつけてるんだユウに。


八つ当たりはやめなければ。


「いやいや、例えの話な?」


「ふんっ!分かってるわよ」


「ほんっと、お前は家族想いだよな」


「…別に」


完全に照れ隠し。


ぷいっと、ユウとは反対を向いた。


私は家族想いだ、そんなの当たり前。


昔のトラウマがあるから、私の心配と不安は絶えない。


「華恋、一度サク兄さんのところに行ってみたら?ユウが言ってたようなことにはなってないと思うけど」


やはり兄妹達からみても、サクの変化は明らかなようだ。


3人とも変化を感じ取ったのだから。


なんだか嫌な予感がする。


「とりあえず、今回の事件のことをもっと調べた方がいいかもしれないわね。もしよければ調査とは別に、私に力を貸してくれないかしら?」


私なんかに、任務以外で手を貸してくれるなんて思ってない。


でも、お願いしたい。


この頼もしいメンバーに。


「「もちろん」」


「まあ、そのくらいなら…」


3人は同じ反応をしてくれた。


その返事が返ってくるとは思っていなくて、きょとんとする。


「少しでも華恋の好感度上げたいし〜」


ユウは相変わらず能天気。


「まあ、手伝って損はないし。僕も知りたい事だったからちょうどいい」


さりげなく気分を上げてくれるツキ。


「今回はいいよ。僕も加担する」


珍しく協力的なレン。


「ふふっ、ありがとう」


この3人が、なんだか家族のような感じがした。


いつかは誰かと政略結婚。


そんなの嫌とか思ってたけど、今はいいかもなんて感じてる私がいるのも事実。
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