裏社会の私と表社会の貴方との境界線
共有能力
確かに千智と紺凪は私に友好的だ。
ナイトメアにも所属していないし、協力しても裏切りにはならない。
けれど、ナイトメアを敵に回すということは、裏社会を的に回すも同然。
そんな危険を犯してまで、私達のつくかどうか。
…でも、聞いてみる価値はあるかも。
「一応聞いてみるわ」
「うん、そうして」
私はスマホを取り出し、着信履歴から千智を探す。
そして、電話をかける。
数回のコールの後、通話が始まった。
『はいはーい!どちら様?』
元気な千智の声を聞いて、不思議と安心してしまう。
「華恋よ」
『え?!れんれんが電話かけてくるなんて、うれしい〜!』
「ごめんなさい。今はそんなに呑気な状況じゃないの」
私の言葉に、なんとなく察したように聞く。
『何かあったの?』
「ええ。とにかく会って話したいわ。できるだけ早くね」
少しの沈黙の後、千智は返事をした。
『分かった。紺凪は連れてくけど、斗亜は連れてかないね』
なんの話か、大体察しているようでよかった。
「ありがとう。今から来るの?」
『え、うん。そだねー』
「そう、分かったわ。ありがとう」
そう言って、私は通話を終了させた。
話しだけ聞いてもらえれればいい。
もし断られたら、レイの能力で記憶を消せばいい。
能力共有をしている私とレイは、お互いの能力を使用できる。
「華恋、ここからだと寮までは時間がかかるよ?もう少し後に来てくれって言った方が、いいんじゃない?」
「それなら大丈夫よ。戻ろうと思えば、今すぐ寮に戻れるから」
「え…?どういうこと?」
理解できないのも無理はない。
説明するのが面倒だから、能力を見せて納得させることにした。
まあ、納得するかは別の話だけど。
それは、まあいいや。
「えーっと、ちょっと待ってねー」
私は必要な本だけを持って、ユウとツキの手首をつかむ。
「え、ちょ…。いきなり何すんだよ華恋」
ユウの動揺する声も無視をする。
「瑠璃華、私の肌に触れて」
私の肌に触れている者にも、能力が影響する。
逆に言えば、素肌に触れていないと能力を使えないということ。
その意味を分かってくれたようで、瑠璃華は私の手に触れた。
そして、私は言葉を唱えた。
「転移、“寮部屋”」
足元が光り、その光に包まれながら落ちていった。
数秒間の浮遊感。
さっきまであった浮遊感はいつの間にかなくなり、地面に足がしっかりついている状態になった。
なんとも不思議な能力だ。
レイの能力のひとつ、「転移」だ。
マークをつけた場所に名前を設定しておくと、いつでもどこからでも転移することができる能力。
瞬時に移動できるため、時間の大幅な短縮になってくれる。
「すご…いつの間にか寮の部屋に…」
ユウもツキもぽかんとしちゃってる感じ。
その様子を見て、瑠璃華と顔を見合わせてからくすくすと笑った。
私達からしたら当たり前だから、反応がついつい面白くて。
「転移魔法ね。これも私の能力の一種よ」
そう言うと、部屋のドアがノックされた。
コンッ、コンッ。
「来たみたいね。私が出るから、3人は座ってて」
私は玄関にドアに向かった。
「やっほー!来たよ〜」
ガチャ。
「来てくれてありがとう千智、紺凪。さあ、中に入って」
「おじゃましまーす!」
相変わらず元気のいい千智に、再び安心する。
「ちょっと少しは遠慮しなよ、千智」
紺凪も呆れながら千智に注意をしている。
いつもの2人だなって思った。
2人とも靴を脱ぎ、リビングに案内する。
「ナイトメア…」
紺凪が、ユウとツキを見てつぶやいた。
2人の顔を知っていることには一瞬驚いた。
ただ、2人は比較的ナイトメアに近い存在だから知っているのか、と考えた。
「とにかく座ってちょうだい。時間がないから、手短に話すわ」
私は真剣な顔で2人に言った。
2人もまた、真剣な顔で頷いてくれた。
千智と紺凪が座ったところで、私は話を始めた。
「単刀直入に言うわ。私たちに協力してほしい。もちろん、断ってもらっても構わないわ」
「…分かった。内容を聞かせて」
不思議とその紺凪の声で、信じられる気がした。
会って数日なのに、変なの。
「まず、自己紹介をさせるわね。こっちは私の妹の瑠璃華」
「初めまして〜。雨晴瑠璃華って言いますっ!3つ子の真ん中だよぉ〜」
「えっ?!瑠璃華ちゃん?!めちゃくちゃかわいい!!」
瑠璃華を見てはしゃぎ出した千智。
なんだか、名前呼びを始めた日を思い出すわね。
確かこんな感じだった気がする。
「えへへ〜、ありがとう千智ちゃん!」
瑠璃華はフレンドリーだから、すぐに名前呼びをする。
まあ、そういう“仮面”に騙される人も少なくないけど。
瑠璃華はまず、人の心に入ろうとしてくる。
内側から壊していくのが得意なタイプだ。
裏社会では、誰も信じちゃいけないって言われてるからね。
瑠璃華が相手を信用するには、長い時間がかかる。
今もきっと、千智との距離感を探っているはずだ。
「ちなみに、あっちにいるのが弟の羅華ね」
羅華はまだ目を覚ましていない。
おそらく今日は目を覚まさないだろう。
傷は治したとはいえ、精神的に疲れてしまっているだろうから。
「え〜、羅華くんイケメン!」
寝ていても、確かに羅華は整った顔をしていると思う。
そのことにまたはしゃいでいる。
何回目かのデジャヴ。
「本題に入るけど、さっきまで2人はサクに監禁されていたの」
途端に千智と紺凪の表情が険しくなった。
「サクって、ナイトメアのトップの人だよね?」
「ええ、そうよ」
ピリッと張り詰めた空気を破ったのは、紺凪のため息だった。
「はぁ…。とりあえず、詳細を聞くよ」
「ありがとう」
紺凪の判断が正しいとも言えない。
でも、私にはそれが嬉しい。
ただそれだけだった。
「全ての内容を話すわ。私達がスカイ学園に来た理由もね。そのうえで、しっかりと考えてほしいわ」
そう言って、私は全てを語り出した。
ナイトメアからの任務でスカイ学園に来たこと。
真聖ノアという人物が、スカイブルーとナイトメアの血を受け継ぎ、この学園のどこかにいるということ。
私達は真白斗亜を、真聖ノアと疑っていること。
瑠璃華と羅華の処分がサクの独自の判断で決まり、命を狙われていること。
私に助けの手紙がきたこと。
ナイトメアをユウとツキ、瑠璃華と共に裏切ったこと。
そう、全てを打ち明けた。
「ここまで話を聞いてくれてありがとう。そして、もう一度問うわ。あなた達には、裏社会を敵にまわしても、私達に協力する覚悟はある?」
2人が私を大切に思ってくれているのは分かっている。
だからこそ、きっと協力はしたいと思っているはず。
だけど、ひとつだけ難点がある。
それは、裏社会を全体を敵にまわすということ。
生活もさらに苦しくなって、任務も与えられなくなるかもしれない。
断ってほしい気持ちと、協力してほしい気持ちが半分半分。
私にとっても大切になってしまったから。
「私達はもう誰にも従わないって決めたの」
千智は、いつにもなく真剣な声で話し始めた。
「裏社会で最強ペアなんて言われてるけど、私達はそんなもの求めてない。名誉も家柄も、そんなの関係ない。私達は、私達の意思で全てを決めるの。だから、華恋。ぜひ私達に協力させて!」
その言葉を聞いて、とにかく驚いた。
まさかそんな風に言ってくれるとは、思っていなかったから。
「千智の言う通りだよ。ぜひ協力させてね。もちろん、裏社会を敵にまわすのは承知の上でだよ。それでも僕らは、君達に協力する」
「…ありがとう」
嬉しくて、なんだか泣けてきた。
背中をさすってくれたツキの手も暖かくて。
こんな幸せが、私なんかにあっていいのかと感じた。
何度も何度もお礼を言った。
その裏で、私の呪いは強く動いていた。
ナイトメアにも所属していないし、協力しても裏切りにはならない。
けれど、ナイトメアを敵に回すということは、裏社会を的に回すも同然。
そんな危険を犯してまで、私達のつくかどうか。
…でも、聞いてみる価値はあるかも。
「一応聞いてみるわ」
「うん、そうして」
私はスマホを取り出し、着信履歴から千智を探す。
そして、電話をかける。
数回のコールの後、通話が始まった。
『はいはーい!どちら様?』
元気な千智の声を聞いて、不思議と安心してしまう。
「華恋よ」
『え?!れんれんが電話かけてくるなんて、うれしい〜!』
「ごめんなさい。今はそんなに呑気な状況じゃないの」
私の言葉に、なんとなく察したように聞く。
『何かあったの?』
「ええ。とにかく会って話したいわ。できるだけ早くね」
少しの沈黙の後、千智は返事をした。
『分かった。紺凪は連れてくけど、斗亜は連れてかないね』
なんの話か、大体察しているようでよかった。
「ありがとう。今から来るの?」
『え、うん。そだねー』
「そう、分かったわ。ありがとう」
そう言って、私は通話を終了させた。
話しだけ聞いてもらえれればいい。
もし断られたら、レイの能力で記憶を消せばいい。
能力共有をしている私とレイは、お互いの能力を使用できる。
「華恋、ここからだと寮までは時間がかかるよ?もう少し後に来てくれって言った方が、いいんじゃない?」
「それなら大丈夫よ。戻ろうと思えば、今すぐ寮に戻れるから」
「え…?どういうこと?」
理解できないのも無理はない。
説明するのが面倒だから、能力を見せて納得させることにした。
まあ、納得するかは別の話だけど。
それは、まあいいや。
「えーっと、ちょっと待ってねー」
私は必要な本だけを持って、ユウとツキの手首をつかむ。
「え、ちょ…。いきなり何すんだよ華恋」
ユウの動揺する声も無視をする。
「瑠璃華、私の肌に触れて」
私の肌に触れている者にも、能力が影響する。
逆に言えば、素肌に触れていないと能力を使えないということ。
その意味を分かってくれたようで、瑠璃華は私の手に触れた。
そして、私は言葉を唱えた。
「転移、“寮部屋”」
足元が光り、その光に包まれながら落ちていった。
数秒間の浮遊感。
さっきまであった浮遊感はいつの間にかなくなり、地面に足がしっかりついている状態になった。
なんとも不思議な能力だ。
レイの能力のひとつ、「転移」だ。
マークをつけた場所に名前を設定しておくと、いつでもどこからでも転移することができる能力。
瞬時に移動できるため、時間の大幅な短縮になってくれる。
「すご…いつの間にか寮の部屋に…」
ユウもツキもぽかんとしちゃってる感じ。
その様子を見て、瑠璃華と顔を見合わせてからくすくすと笑った。
私達からしたら当たり前だから、反応がついつい面白くて。
「転移魔法ね。これも私の能力の一種よ」
そう言うと、部屋のドアがノックされた。
コンッ、コンッ。
「来たみたいね。私が出るから、3人は座ってて」
私は玄関にドアに向かった。
「やっほー!来たよ〜」
ガチャ。
「来てくれてありがとう千智、紺凪。さあ、中に入って」
「おじゃましまーす!」
相変わらず元気のいい千智に、再び安心する。
「ちょっと少しは遠慮しなよ、千智」
紺凪も呆れながら千智に注意をしている。
いつもの2人だなって思った。
2人とも靴を脱ぎ、リビングに案内する。
「ナイトメア…」
紺凪が、ユウとツキを見てつぶやいた。
2人の顔を知っていることには一瞬驚いた。
ただ、2人は比較的ナイトメアに近い存在だから知っているのか、と考えた。
「とにかく座ってちょうだい。時間がないから、手短に話すわ」
私は真剣な顔で2人に言った。
2人もまた、真剣な顔で頷いてくれた。
千智と紺凪が座ったところで、私は話を始めた。
「単刀直入に言うわ。私たちに協力してほしい。もちろん、断ってもらっても構わないわ」
「…分かった。内容を聞かせて」
不思議とその紺凪の声で、信じられる気がした。
会って数日なのに、変なの。
「まず、自己紹介をさせるわね。こっちは私の妹の瑠璃華」
「初めまして〜。雨晴瑠璃華って言いますっ!3つ子の真ん中だよぉ〜」
「えっ?!瑠璃華ちゃん?!めちゃくちゃかわいい!!」
瑠璃華を見てはしゃぎ出した千智。
なんだか、名前呼びを始めた日を思い出すわね。
確かこんな感じだった気がする。
「えへへ〜、ありがとう千智ちゃん!」
瑠璃華はフレンドリーだから、すぐに名前呼びをする。
まあ、そういう“仮面”に騙される人も少なくないけど。
瑠璃華はまず、人の心に入ろうとしてくる。
内側から壊していくのが得意なタイプだ。
裏社会では、誰も信じちゃいけないって言われてるからね。
瑠璃華が相手を信用するには、長い時間がかかる。
今もきっと、千智との距離感を探っているはずだ。
「ちなみに、あっちにいるのが弟の羅華ね」
羅華はまだ目を覚ましていない。
おそらく今日は目を覚まさないだろう。
傷は治したとはいえ、精神的に疲れてしまっているだろうから。
「え〜、羅華くんイケメン!」
寝ていても、確かに羅華は整った顔をしていると思う。
そのことにまたはしゃいでいる。
何回目かのデジャヴ。
「本題に入るけど、さっきまで2人はサクに監禁されていたの」
途端に千智と紺凪の表情が険しくなった。
「サクって、ナイトメアのトップの人だよね?」
「ええ、そうよ」
ピリッと張り詰めた空気を破ったのは、紺凪のため息だった。
「はぁ…。とりあえず、詳細を聞くよ」
「ありがとう」
紺凪の判断が正しいとも言えない。
でも、私にはそれが嬉しい。
ただそれだけだった。
「全ての内容を話すわ。私達がスカイ学園に来た理由もね。そのうえで、しっかりと考えてほしいわ」
そう言って、私は全てを語り出した。
ナイトメアからの任務でスカイ学園に来たこと。
真聖ノアという人物が、スカイブルーとナイトメアの血を受け継ぎ、この学園のどこかにいるということ。
私達は真白斗亜を、真聖ノアと疑っていること。
瑠璃華と羅華の処分がサクの独自の判断で決まり、命を狙われていること。
私に助けの手紙がきたこと。
ナイトメアをユウとツキ、瑠璃華と共に裏切ったこと。
そう、全てを打ち明けた。
「ここまで話を聞いてくれてありがとう。そして、もう一度問うわ。あなた達には、裏社会を敵にまわしても、私達に協力する覚悟はある?」
2人が私を大切に思ってくれているのは分かっている。
だからこそ、きっと協力はしたいと思っているはず。
だけど、ひとつだけ難点がある。
それは、裏社会を全体を敵にまわすということ。
生活もさらに苦しくなって、任務も与えられなくなるかもしれない。
断ってほしい気持ちと、協力してほしい気持ちが半分半分。
私にとっても大切になってしまったから。
「私達はもう誰にも従わないって決めたの」
千智は、いつにもなく真剣な声で話し始めた。
「裏社会で最強ペアなんて言われてるけど、私達はそんなもの求めてない。名誉も家柄も、そんなの関係ない。私達は、私達の意思で全てを決めるの。だから、華恋。ぜひ私達に協力させて!」
その言葉を聞いて、とにかく驚いた。
まさかそんな風に言ってくれるとは、思っていなかったから。
「千智の言う通りだよ。ぜひ協力させてね。もちろん、裏社会を敵にまわすのは承知の上でだよ。それでも僕らは、君達に協力する」
「…ありがとう」
嬉しくて、なんだか泣けてきた。
背中をさすってくれたツキの手も暖かくて。
こんな幸せが、私なんかにあっていいのかと感じた。
何度も何度もお礼を言った。
その裏で、私の呪いは強く動いていた。