裏社会の私と表社会の貴方との境界線

厄介ごと

「な、なんだよそれ?!むちゃくちゃだ!」
「落ち着いて、ツキ」
取り乱すのも無理はないけどね。
サクがシルヴァの能力を使える以上、私達は圧倒的不利なのだ。
自身の境界では能力を倍以上の威力にできたり、他者の能力を抑えたり使用できなくすることができる。
普通だったら特定の場所にしかないし、境界内で戦わなきゃいいんだけど…。
それ自体を移動できるとなると話が変わってしまう。
「それじゃあ、俺ら負け確じゃん。華恋だって能力使えないんだろ?」
「それは分からないわ。やってみなくちゃ」
能力は使えなくてもこれだけの実力者を相手にすれば、サクだって大変なはず。
それに…。
「でも、お姉ちゃんは能力使えるんじゃないの〜?だってシルヴァ様より魔力多いじゃん?」
そう、境界で抑えられる魔力には限度がある。
自分より多い魔力は抑え込むことができない。
とはいっても、普段より魔力量が減るわけだから不利ではあるんだけど。
実は私は神々の中では一番魔力量が多いの。
女神の長所は莫大(ばくだい)な魔力量であり、私はそれが(けた)違いなのだ。
つまり、私はシルヴァの境界内でも能力が使用できるということ。
「ちなみにレイもね。参戦してくれるはず。だから、私達はまだ勝てる可能性があるの」
「そう…なのか。少し希望が見えたな」
表情や態度には表れていないけれど、ツキはどこかホッとしているように見えた。
しかし、問題はまだある。
残念ながらね。
「あとひとつ問題なのは、第六王子と第七王子よ。ユキはこちら側についてくれるでしょうけどね」
私や瑠璃華、羅華がいるからユキが協力してくれるのは分かっている。
しかし、残りの兄弟はどちらにつくか分からない。
自分の利益しか考えない腹黒王子のリオと、研究熱心で人間の領域を超えているレオ。
2人の耳に入らない…なんて都合のいいことがあるわけがない。
メア家と雨晴家の問題だし、2人もどちらかにつくはず。
ただし、敵になるのを恐れて自ら仲間に引き込むのはNG。
「リオとレオかぁ〜。俺もあんま会ってないし、よくわかんねんだよなー」
「僕はそもそも関わりがない。リオは勝手に張り付いてきただけだ」
「え〜、私もあの2人はよく分かんなーい!だってだって、2人とも怖いんだもん!」
瑠璃華でさえ仲良く慣れないなら、こっちにつく可能性は考えない方がいい。
2人の強さもよく分からないし、対策のしようもない。
サクよりも倒しにくいかも。
「とにかく、あの2人は見張っとかないとね。使い魔を送らせるわ。そうすれば、怪しまれずに行動を監視できるはず」
行動を監視するのは私達では難しい。
けれど、動物が近くを飛びまわろうが怪しまれることはない。
こういう時に使い魔というのは便利なのだ。
レイの使い魔は不死鳥だから、目立ってしまう。
だから、私の使い魔を送らせる。
「私の使い魔を送らせるわ」
「お姉ちゃんの使い魔って何?!かわいい?」
興味津々の瑠璃華には申し訳ないけど、かわいいとは違う気がする。
だって私の使い魔は…。
「私の使い魔は麒麟(きりん)よ。災いを教えてくれるの。小さいしかわいい…と思えばかわいいかしら?」
そう言って3人の顔を見ると、よく分からない顔をされた。
「な、何よその顔!!」
「いやだってよぉ。なんだよ麒麟(きりん)って、かわいくねーだろ」
「僕もそう思う」
そう言われて、私はほほをふくらませた。
「うるさいわね!!かわいくなくってもいいでしょ?!」
怒ってしまった私に、3人は顔を見合わせて苦笑いをした。
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