裏社会の私と表社会の貴方との境界線

side真聖琉愛 〜呪い〜

『本家の子なのに呪いを扱えないなんて、一家の恥さらしね』
『全く役に立たないじゃない』
大丈夫、もう聞き慣れた。
でも、やっぱり涙はあふれてきて。
生まれてこなきゃよかったのに、役立たずでごめんね。
ーーーーー
るあの呪いは“非日常”で、普通の日常が送れないっていうこと。
対価は“健康な体”。
るあの寿命は100年って保証されてて、病気とか事故じゃ絶対死なない。
だから、健康な体。
でもるあはね、病気をいくつももってるの。
ひとつ目は発達障害。
「あっ。るあちゃんだ」
病院の廊下を歩いていたら、女の子から声をかけられた。
確かひとつ下のななちゃんだっけ。
足が悪くて入院してる子だったはず。
「ななちゃん、あの子と仲良いの?」
「うん!前に遊んだんだ〜。友達だよ!」
にこっと笑いかけてくれるななちゃんだけど、その笑顔からは私は何も感じられなかった。
「え、でもあの子って…っきゃ!!」
いきなり角を曲がってきた少年に、ななちゃんの友達がぶつかってしまった。
そして、ななちゃんの友達が倒れ込む。
「ちょっと大丈夫?!かの!」
かのちゃんは痛そうに顔をゆがめながら、ななちゃんに笑いかけた。
「うん、たいしたことないよこのくらい」
「大丈夫ならいいんだけど…」
かのちゃんが痛そうにしていても、ななちゃんが心配そうにしていても、少年が謝っていてもやっぱり私は何も感じなかった。
私は変だから。
「なんでななちゃんは、かのちゃんの心配をするの?」
「え…?」
ついつい出てしまったその言葉に、ななちゃんは意味わかんないよという顔をした。
「だってケガしてないよね?ぶつかったらそりゃ誰でも痛いし、普通じゃない?ケガしてないんだし心配する理由ないじゃん」
言葉が止まらなかった。
だって気になってしまったから。
なんでななちゃんが心配するのか、少年が謝るのか。
私には理解できなかったから。
「だ、だって痛がってるから…」
「ふーん。よく分かんないや。じゃあ、るあは行くから」
理解できないこの不愉快さを感じたくなくて、るあは3人に冷たい目を向けて去って行った。
だって、るあとこの子達は友達じゃないもん。
仲良くする理由がないから。
「なにあれ、琉愛ちゃんってひどい」
その言葉が届くことはなかった。
るあのひとつ目の病気は発達障害、みんなの感情が理解できないんだ。
ーーーーー
ふたつ目は記憶障害。
病院の廊下を歩いて中庭に行くと、今度は女の人が話しかけてきた。
「るあじゃない。部屋を出てきたの?」
「え…誰?」
まっすぐに伸びた茶色の髪の女性はおっとりしていて、すごく美人な人だった。
まるで知り合いみたいに話してくるけど、全然知らない人だ。
「……忘れちゃった?」
少し長い間を開けた後、女性は私にそう言った。
“忘れちゃった?”
その言葉で確信した。
私はこの人を忘れてしまったんだ。
「うん。ごめんなさい、誰だかわからないや。あなた、だあれ?」
そう言うと、女性は静かに涙に涙を流した。
私は慌てて駆け寄る。
「ご、ごめんなさい!嫌な思いさせちゃいましたよね。本当にごめんなさ…」
「いいのよ。覚悟してたことだから」
私の言葉をさえぎって、そう言ってから女性は涙をふきとった。
覚悟していたと言っても泣いてしまうくらいなんだから、大丈夫ではないだろう。
それから、女性はゆっくりと口を開いて言った。
「私は…あなたの母親よ。ましろりなというの」
ズキンッ…!
私の胸が痛んだ。
親しい人は忘れなかったはずなのに、もう母親のことも忘れてしまったんだと。
罪悪感で、影が真っ黒に見えた。
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