裏社会の私と表社会の貴方との境界線

side真聖琉愛 〜呪い〜

『本家の子なのに呪いを扱えないなんて、一家の恥さらしね』


『全く役に立たないじゃない』


大丈夫、もう聞き慣れた。


でも、やっぱり涙はあふれてきて。


生まれてこなきゃよかったのに、役立たずでごめんね。


いつも思ってるに決まってる。


***


るあの呪いは“非日常”で、普通の日常が送れないっていうこと。


対価は“健康な体”。


るあの寿命は100年って保証されてて、病気とか事故じゃ絶対死なない。


だから、健康な体。


でもるあはね、病気をいくつももってるの。


ひとつ目は発達障害。


「あっ。るあちゃんだ」


病院の廊下を歩いていたら、女の子から声をかけられた。


たしかひとつ下のななちゃんだっけ。


足が悪くて入院してる子だったはず。


大丈夫、覚えてる。


「ななちゃん、あの子と仲良いの?」


「うん!前に遊んだんだ〜。友達だよ!」


にこっと笑いかけてくれるななちゃんだけど、その笑顔からは私は何も感じられなかった。


「え、でもあの子って…っきゃ!!」


いきなり角を曲がってきた少年に、ななちゃんの友達がぶつかってしまった。


そして、ななちゃんの友達が倒れ込む。


「ちょっと大丈夫!?かの!」


かのちゃんは痛そうに顔をゆがめながら、ななちゃんに笑いかけた。


「うん、たいしたことないよこのくらい」


「大丈夫ならいいんだけど…。ていうか、謝ってよ!!」


かのちゃんが痛そうにしていても、ななちゃんが心配そうにしていても、少年が謝っていてもやっぱり私は何も感じなかった。


私は変だから。


今日は一段とひどいな。


「なんでななちゃんは、かのちゃんの心配をするの?」


「え…?」


ついつい出てしまったその言葉に、ななちゃんとかのちゃんは意味わかんないよという顔をした。


「だってケガしてないよね?ぶつかったらそりゃ誰でも痛いし、普通じゃない?ケガしてないんだし心配する理由ないじゃん」


言葉が止まらなかった。


だって気になってしまったから。


なんでななちゃんが心配するのか、少年が謝るのか。


私には理解できなかったから。


「だ、だって痛がってるから…」


「ふーん。よくわかんないや。じゃあ、るあは行くから」


理解できないこの不愉快さを感じたくなくて、るあは3人に冷たい目を向けて去って行った。


だって、るあとこの子達は友達じゃないもん。


仲良くする理由がないから。


「なにあれ、琉愛ちゃんってひどい」


その言葉が届くことはなかった。


るあのひとつ目の病気は発達障害、みんなの感情が理解できないんだ。


ふたつ目は記憶障害。


病院の廊下を歩いて中庭に行くと、今度は女の人が話しかけてきた。


「るあじゃない。部屋を出てきたの?」


「え…誰?」


まっすぐに伸びた茶色の髪の女性はおっとりしていて、すごく美人な人だった。


まるで知り合いみたいに話してくるけど、全然知らない人だ。


「……忘れちゃった?」


少し長い間を開けた後、女性は私にそう言った。


“忘れちゃった?”


その言葉で確信した。


私はこの人を忘れてしまったんだ。


「うん。ごめんなさい、誰だかわからないや。あなた、だあれ?」


そう言うと、女性は静かに涙に涙を流した。


私は慌てて駆け寄る。


「ご、ごめんなさい!嫌な思いさせちゃいましたよね。本当にごめんなさ——」


「いいのよ。覚悟してたことだから」


私の言葉を遮って、そう言ってから女性は涙をふきとった。


覚悟していたと言っても泣いてしまうくらいなんだから、大丈夫ではないだろう。


それから、女性はゆっくりと口を開いて言った。


「私は…あなたの母親よ。ましろりなというの」


ズキンッ…!


私の胸が痛んだ。


親しい人は忘れなかったはずなのに、もう母親のことも忘れてしまったんだと。


罪悪感で、影が真っ黒に見えた。
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