離婚を前提にお付き合いしてください ~私を溺愛するハイスぺ夫は偽りの愛妻家でした~
 千博の方から話しかけてきたかと思えば、用件は博物館へのお誘いで、わざわざ展示物の詳細まで語って聞かせてくれた。

 そのときの千博におかしなところは少しもなく、むしろ以前の千博に戻ったのではないかと思うくらいよくしゃべっていた。もちろんあの頃のような甘い空気はなかったし、特別優しい表情だったわけでもない。それでもどこかやわらかくて自然な空気を纏っていた。

 そして、それからというもの、なぜか千博は頻繁に美鈴を誘うようになった。それに比例して二人の会話は自然と増え、あの頃と同じとまではいかなくとも、互いの意見を議論し合えるくらいにはなった。

 とても離婚を控えているとは思えないくらい自然な空気が二人の間に流れているのだ。

 美鈴はその状態をとても好ましいと思っている。

 あの日、千博の奥底に少しだけ触れて、無理に彼を知ろうとするのはやめようと思ったのだ。ただただ同じ時を過ごし、言葉を交わす。そうして自然に彼を知っていくのがいい。

 そうすれば前向きな気持ちで千博との別れを迎えられる。そんな気がしている。



 しかしながら、今の千博との関係で、美鈴は一つだけどうにも困っていることがある。最近の千博の行動でどうしても理解できないことが一つあるのだ。それが美鈴を困らせる。

 今朝もそれで随分と戸惑った。

 美鈴はそのときのことを思い出し、塾からの帰りの電車の中で、人知れず小さなため息をついた。
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