離婚を前提にお付き合いしてください ~私を溺愛するハイスぺ夫は偽りの愛妻家でした~
「……千博さんは映画も好きなの?」

 口にした後で、千博を探るようなことを訊いてしまったとわずかに後悔するが、今回はしかたがなかったと己に言い聞かせる。

 質問を訂正することはせず、返答を待っていれば、千博は考える様子もなく答えてくれる。

「どちらでもないかな。ただこういうネイチャードキュメンタリーはわりとよく観ている」

 その回答に美鈴は一人納得する。今の千博に映画好きだと言われてもあまりピンとこないが、自然をテーマにした作品を好むのはなんだかわかるような気がした。

 文化財を見て皮肉と言ってしまう彼だから、人の機微を描いた作品よりも、人の思いから外れたところにある雄大な自然を捉えた作品の方が好きなのではないかとそう思った。

「そっか、ネイチャードキュメンタリー。うん、なんだか千博さんぽい。好きそうな感じがする」
「まあ、必ず映画館に足を運んでまで観たい、というほどではないけどな。今回も同僚がこの映画の話をしているのを聞いて、偶然その存在を知ったくらいだから」
「そうなの?」
「うん。話を聞いていて、こういうものも一応は好きなものに入るんじゃないかと思ったから」

 今の言葉で、美鈴の要望に応えようとしてくれていたのだと察する。千博の好きなものが知りたいと言ったから、この映画に誘ってくれたのだろう。

 無理に彼を知ろうとするのはやめると決めたが、こうして彼から歩み寄ってくれるのはとてつもなく嬉しい。
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