離婚を前提にお付き合いしてください ~私を溺愛するハイスぺ夫は偽りの愛妻家でした~
***

 密室でありながらも、いつ社員が現れるかわからない会議室という空間。そんな場所で秘密の話を持ち出そうとする宮下を千博はすぐさま制止する。

「宮下さん、そういう話は――」
「もう昼休憩の時間ですから大丈夫ですよ。ここを通る人はいません。で、考えてくれました?」

 下がる気配のない宮下に苛立ちが募る。しかし、こんな場所でその苛立ちを表に出せるわけもなく、千博は冷静に返す。

「そもそも見当違いの話だから、僕が答えることは何もないよ」
「離婚したらどうせすぐにばれますよ。その指輪、別れてもずっとつけ続けるわけでもないですよね? あっという間に噂になりますよ」

 思わず指輪に触れる。彼女の言う通りだが、美鈴以外からこの指輪についてとやかく言われるのは面白くない。

 千博はほんのわずかだけ眉根を寄せる。宮下はそれに気づいているのか、いないのか、さらに千博に詰め寄ってくる。

「私なら噂もいい方向に書き換えられます。どうです? とてもいい話だと思うんですけど。奥様にももういいお相手がいらっしゃるみたいですし」

 宮下の言葉に苛立ちが頂点に達する。美鈴にほかの男がいることを示唆され、自然と声音が低くなる。

「は? ……何を言っているのかな?」
「ご存じありませんでしたか? 確かー、『はる先生』だったかな。とても親し気でしたよ。ですから、早く別れた方がお互いのためだと思います」

 言い表しがたい黒い何かが千博の胸の中を渦巻いていく。磯崎と直接対面したとき以上に激しい感情が押し寄せ、愛とは程遠い、執着とも言えるようなどす黒いものが千博を支配していく。

 そんな感情を呼び覚ます宮下が憎くてたまらない。千博は強く罵倒しそうになる己を必死に抑え込む。
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