離婚を前提にお付き合いしてください ~私を溺愛するハイスぺ夫は偽りの愛妻家でした~
「……それは宮下さんの勘違いだよ。だから、もうその話はしないでもらえるかな?」
「それが外されても、同じことが言えますかね。ここで認めた方が早いと思うんですけど。まあ、そこまで徹底されているのならしかたありません。それが外れた頃にまた来ます」

 背を向ける宮下に冷たい視線を送る。早く出て行ってくれと願うが、宮下はなぜか振り返って再び千博に寄ってくる。

「そうだ。これ、奥様の忘れ物です」

 宮下はプレゼントらしきものを千博に手渡してくる。

「は? 忘れ物って……妻に会ったのか?」

 宮下はその問いには答えず、ただにこりと微笑む。そして、千博に忘れ物だという何かを押しつけたかと思うと、そのまますぐに会議室のドアを開けた。

「おい、待――」

 呼び止めようとする千博の声は、すでに閉じられたドアに阻まれ、宮下には届かなかった。

「はあー、くそ」

 面倒としか思えない『忘れ物』に千博は頭を抱える。美鈴と宮下に面識があるとは思えない。それなのに忘れ物とはどういうことか。

 これを美鈴に持ち帰ったところでろくなことにならない気がする。人の目がないタイミングを見計らって、宮下に返すしかない。これ以上美鈴との空気がおかしくなるのは何としても避けたいのだ。

 千博はひとまずスーツのポケットにそれをしまうと、今度こそ外の空気を吸いに会議室から出た。

 けれど、いくら外の空気を吸っても、千博の中に生まれた黒い何かが完全に消えることはなかった。
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