離婚を前提にお付き合いしてください ~私を溺愛するハイスぺ夫は偽りの愛妻家でした~
 駅からは徒歩二十分の距離にあるワンルームの賃貸マンション。美鈴がこの家に住み始めてもう少しで半年が経つ。それはすなわち千博と離婚してからそれだけの月日が経ったことも意味する。

 美鈴と千博は当初の約束通り、離婚前提の交際から半年で離婚した。

 元々離婚に向けて動いていたとはいえ、二人の別れはとてもあっさりとしたものだった。あんな出来事があれば普通に過ごせるはずもなく、最後の三日間はほとんど事務的な会話だけをして終わってしまったのだ。

 ただし、千博が美鈴を気にかけてくれたことだけはよく伝わった。

 なにしろこの部屋に置かれているまだまだ新しいと言える家具や家電はすべて千博が揃えてくれたものだ。せめてもの償いだからと言って、足りないものはすべて買い揃えてくれた。

 財産分与も税金がかからないであろうギリギリの額にしてくれたから、美鈴の資産は結婚前よりも随分と増えている。

 離婚にあたって必要な各種手続きについても事前に調べてくれて、いろいろと美鈴をサポートしてくれた。

 美鈴はそれがとてもありがたくもあり、寂しくもあった。別れに向けて協力しているのがとても寂しかった。

 しかし、半年近い時が経てば、寂しいという感情も薄れ、今は明るい気持ちの方が大きくなっている。

 美鈴はもう間もなく新たな一歩を踏み出すのだ。部屋の隅に置かれた大きなスーツケースがその新たな一歩を後押ししてくれる。今はまだ空のスーツケースがぱんぱんになる日、美鈴は希望を胸にここを旅立っていく。
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