離婚を前提にお付き合いしてください ~私を溺愛するハイスぺ夫は偽りの愛妻家でした~
 授業終わりの講師控室。休憩に入ってきた講師や次の授業へ向かう講師がいるほか、空きコマの時間を潰す人もいれば勤務を終えて帰宅する者もいる。

 その中で、今日の担当分を終えた美鈴は、ゆっくりと帰り支度をする。一人暮らしの家に帰るのに急ぐ理由はない。

 時折、同僚の会話に交じりながら支度を進めていれば、後から入ってきた磯崎が美鈴に話しかけてきた。

「出発の日までもう少しですね」
「ですね。もう一ヶ月を切ってしまいました」
「寂しくなりますね。一緒に働いた時間はたったの一年なのに、桑原先生がいなくなると思うと、とても寂しい気持ちになります」

 美鈴も同じ気持ちを抱く。前職よりも短い期間しか働いていなかったが、この職場を去るのはとても寂しい。

「私もです。はる先生には本当によくしていただいたので、お別れするのは名残惜しいです。まあ、またすぐに戻って来るかもしれないですけれどね」

 肩をすくめながら、くすりと笑う。

 美鈴は今月末で退職するが、塾長からはまた戻ってきてもいいと言われている。先のことはまだ何も決めていないが、本当にすぐここに戻ってくる可能性もあるのだ。

 磯崎もそれはわかっていて、美鈴と同じように笑っている。

「確か、三ヶ月でしたよね」
「はい。きっとあっという間なんでしょうね。カナダに行くのは初めてですし、向こうの空気を満喫している間に終わってしまいそうです」

 まだ見ぬ土地を想像し、胸をときめかせる。

 美鈴がカナダで過ごすのは四月からの三ヶ月間。仕事で行くわけでも、観光で行くわけでもなく、語学留学のためにカナダへと向かう。

 留学先の候補はほかにもいろいろとあったものの、英語圏であることや、今まで行ったことのない国など、いくつかの条件で絞り、その中から一番心惹かれるところとしてカナダを選んだ。

 浮かれた気持ちが表情にも表れていたのか、磯崎は声を出して笑っている。

「はははっ。たくさん満喫してきてくださいね」
「それはもうたっぷりと」

 くすくすと磯崎と笑い合う。

 磯崎とこうして会話をするのも、慕ってくれる子供たちに英語を教えられるのもあと少しで終わりだと思うと寂しくなる。けれど、新しい道を進むときにこういう別れは付き物。縁があればまたきっと会えるだろう。

 そのときに笑顔で再会できるよう、残りの時間を楽しく過ごしていきたい。そんな思いを胸に一日一日を大切に生きている。
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