離婚を前提にお付き合いしてください ~私を溺愛するハイスぺ夫は偽りの愛妻家でした~
 千博は居住まいを正し、こちらを見据えながら、「美鈴」と呼びかけてくる。

 あまりに真っ直ぐに見つめられ、美鈴も目を逸らすことができない。千博から緊張が伝わり、美鈴も自然と緊張を覚える。その緊張を外れない視線と二人の間の静寂が強めていく。

 美鈴を見つめる千博の瞳が少し揺らぎ、彼の顔に切ない笑みが浮かんだ次の瞬間、千博の口からとてもやわく甘い声がこぼれ始めた。

「君への愛が偽りだと言ったことを撤回するよ。僕は美鈴を愛している。心の底から君が好きだ」

 美鈴は瞬時に体を強ばらせる。千博からの愛の告白が怖くて、苦しくて、切なくて、とても腹立たしい。でも、それと同時にどうしようもなく嬉しい。そんな複雑な感情が次々に溢れ、美鈴はひどく混乱する。

「え……いや、待ってよ。やめて……今さらやめてよ」
「わかっている。僕の言葉が信じられないのはよくわかっている。でも、嘘ではないんだ。ずっと理想のために偽りの愛を演じているつもりでいたけれど、そうではなかった。最初から君に惹かれていたんだ。美鈴だから、僕はあんなふうに愛せたんだよ。ほかの誰にもこの愛は向けられない」
「そんな……偽りだって言ったのは千博さんでしょう?」
「そうだね。僕は自分の気持ちすらわからない愚か者だった。でも、簡単には心変わりしないと言った君の言葉で気づいたんだ。偽りだと思っていた僕の愛も、美鈴以外には向ける気にならないんだと。ただ美鈴が好きでそうしていたんだと気づいた」

 切なく甘い千博の表情がその言葉が真実なのだと告げてくる。

 もしも、もっと前に同じことを言われていたなら、美鈴は素直に受け入れられただろう。けれど、あれだけこじれた後では簡単には受け入れられない。
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