離婚を前提にお付き合いしてください ~私を溺愛するハイスぺ夫は偽りの愛妻家でした~
 寝室を一歩出れば、美鈴はいつも通りを心がけて千博に接するようにした。千博の言葉を真っ直ぐに受け止め、自分も素直に応える。千博に気取られないよう、とにかく平静を装った。しかし、美鈴の様子がどこかおかしいことは隠しきれていなかったらしい。

「さて、映画の約束だったけど、どうしようか。美鈴が本調子じゃないなら、また別の日にでも行こうか。今日は家でのんびりして。ね?」

 美鈴を気遣う言葉に胸が苦しくなる。

 複雑な心境とはいえ、その約束も予定通りにこなすつもりだった。今はただ何も考えずに、いつもの二人でいようと。

 けれど、そんな提案をされると迷う。千博の言う通り、無理に出かけない方がいいのかもしれない。こんな状態で千博と出かけてもきっと苦しくなるだけだ。

 しかし、家にいたとしても、それは同じではないかとも思う。いや、むしろこの家で二人きりでいる方が鬱々としてしまうかもしれない。

 結局、他人の目が合った方が幾分普通に過ごせるような気がして、千博の優しい提案には乗らなかった。

「……ううん。大丈夫だから、今日行きたいな。すごく楽しみにしてたの」
「そう? 無理してない?」
「うん。大丈夫」
「なら行こうか」

 微笑みを向けられるたびに痛む胸には気づかないふりをして、美鈴も微笑み返した。
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