離婚を前提にお付き合いしてください ~私を溺愛するハイスぺ夫は偽りの愛妻家でした~
 手嶋の方のコーヒーからは目を背け、渡されたブラックコーヒーに口をつける。コーヒーのほのかな香りと口に広がる苦みが千博の心を落ち着ける。

 想定外の出来事に柄にもなく動揺していたが、少しだけ人心地がつく。ほっと小さく息を吐き出し、もう一口コーヒーを口に含もうとするが、手嶋の無遠慮な質問がそれを妨げる。

「で、何があった? 美鈴ちゃんに振られでもしたか」

 この男のこういうところが嫌いだ。妙に嗅覚がよくて、人の考えを察する能力に長けている。隠し事をしても手嶋には絶対にばれる。どれだけ理論で塗り固めても、ただの勘で鋭く本質を見抜いてくるから厄介だ。

 だが、今はかえって都合がいいかもしれない。元々その話をするつもりでここにやってきたのだ。
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