離婚を前提にお付き合いしてください ~私を溺愛するハイスぺ夫は偽りの愛妻家でした~
「あ、桑原先生。おはようございます」

 美鈴の入室直後に入ってきた磯崎(いそざき)元春(もとはる)に声をかけられた。手に何も持っていないところを見ると、トイレなどでたまたま外に出ていたのだろう。相変わらず人好きのする温和な笑みを浮かべる磯崎に美鈴も笑顔で挨拶を返す。

「おはようございます。はる先生」

 生徒から広まったという彼の呼び名『はる先生』。とても温かくて朗らかな空気を纏う磯崎にはピッタリの名だ。

 働き始めてすぐの頃はその名で呼ぶのは気さくすぎると感じたものだが、周囲が普通に呼んでいるからか、美鈴もその名で呼ぶのが自然になった。

 美鈴と同年齢ということもあり、今ではとても親しくしてもらっている。


 美鈴が『はる先生』と呼ぶ一方で、磯崎が美鈴を『桑原先生』と呼ぶのは、塾長にお願いして旧姓で働かせてもらっているからだ。美鈴の事情を知っているわけではない。

 けれど、何かと気遣いのできるこの人は、美鈴が何か大きな不安を抱えていることに気づいているようで、いつもさりげなく美鈴を助けてくれている。

 美鈴を雇ってくれた塾長も、美鈴の事情を考慮して旧姓の使用を認めてくれたり、勤務形態の相談に乗ってくれたりととてもよくしてくれている。

 未来に不安を抱えている今の美鈴にとってはとても大きな救いだ。
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