離婚を前提にお付き合いしてください ~私を溺愛するハイスぺ夫は偽りの愛妻家でした~
 塾の空きコマの時間。休憩を取っていた美鈴は突然目の前に現れた一粒のチョコレートに意識を引き戻される。

「どうぞ」
「え?」
「なんだかお疲れのようなので」

 チョコレートからゆっくりと視線を上げていくと、そこには心配そうにこちらを見る磯崎の姿が。

 どうやら一人でぼーっと考え込んでいたせいで、疲れていると思わせてしまったようだ。

「あ、ありがとうございます。気を遣わせてしまってすみません」
「いえ。気休め程度かもしれませんが、エネルギー補給にどうぞ」

 美鈴は「いただきます」と言ってチョコレートを頬張る。先ほどまで脳を酷使していたからか、たった一粒でも十分に癒される。

「ふふ、おいしい。元気が出ますね。ちょっと考え込みすぎていたのでいい気分転換になりました」
「そうでしたか。生徒のことですか?」

 磯崎は心配そうに尋ねてくる。仕事で何かトラブルを抱えていると勘違いさせてしまったのかもしれない。

「いえ、そうではなくて、私自身のことで」
「あ、もしかしてほかのお仕事のことで?」

 磯崎は美鈴がほかの就職先を探していることを知っているから、その質問が出るのは当然と言えよう。彼の言う通り確かにそれも考えなければならないことの一つだが、比重は圧倒的に千博のことが大きい。とはいえ、具体的には口にできない。

「あー、それもまあ確かにありますが、もっとプライベートな悩みといいますか」
「なるほど。では、あまり掘り下げて聞かない方がいいですね。代わりにもう一つどうぞ」

 磯崎はもう一粒チョコレートを取り出し、美鈴に差し出してくれた。
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