離婚を前提にお付き合いしてください ~私を溺愛するハイスぺ夫は偽りの愛妻家でした~
「……何がと言われても……特別好きなものはないよ」
「本当に? 好みくらいあるでしょう?」
「……」

 千博は答えたくないというよりは答えられないという感じで困っている。

 さすがに好みが何もないなどということはないはずだが、彼自身があまりそれを意識していないのかもしれない。

 それならばと美鈴は千博の前に置かれたカップを指さす。

「これは? 千博さんはコーヒーが好きだと思ってたけど、違う?」

 千博の表情が難しい顔から少し納得した表情へと変化する。

「まあ、好きな方ではあるかな。香りがいいし、苦味があるのもいい」
「苦いのが好きなの?」
「味の種類としては比較的苦味が好きだと思う。いや、というよりは、極端に甘いものや塩辛いものが苦手だから、それを避けていた結果と言った方がいいかもしれない」

 千博が口にした苦手なものに美鈴はドキリとする。甘いものも塩辛いものもこれまで散々出してきた。今だって甘めに味付けしたかぼちゃのサラダを出している。

「え、じゃあ、もしかしてこのサラダもあまり好きじゃなかった?」
「あー、いや、美鈴の料理は大丈夫。味の濃いものが苦手というだけで、甘いもの全般だめなわけじゃない。美鈴の料理は味付けがちょうどよくておいしいと思う」

 今の千博から『おいしい』という言葉が出たことに美鈴は人知れず感動を覚える。気に入ってくれているように感じていたのは、間違いではなかったらしい。

「そう。そっか。本当においしいと思ってくれてたんだ」

 ほっとして笑みを浮かべながらそうこぼせば、千博は少し照れくさそうにしながら「うん」と頷いてくれた。
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