はるけき きみに ー 彼方より -
はるかな出逢い
行きたい どこかへ
ただそれだけだ
マシューは紫音に言った
彼の目は西日を帯びて輝いている
それはすごくまぶしいものに 紫音には見えた
◆ ◆ ◆
大海は荒れていた。
季節外れの嵐に、風が吹き荒れ突き刺すほどの雨が降っている。
その海原で一艘の船が揺れていた。
船はそれなりに大きいが、もてあそぶような大波が上下、左右へと揺さぶっている。
甲板で大男が怒鳴っていた。
怒ったようにこぶしを振りあげ何かを命じていた。
彼は船に張ってある大きな帆を指さした。
高いマストにいくつもの帆が張られている。帆は今にも張り裂けそうに風を孕んでいた。
どうやらその帆を下ろせと命じているらしい。
水夫が懸命にロープを操作しようとする、しかし動く気配がない。綱が絡まっているのだ。しかもその絡まりはマストの上部だ。
大男がわめき続けていた。
誰かが登って絡まりを解けと言っているらしい。
船員は尻込みした、この暴風雨のなか上まで登れるわけはない。
だがしかし、帆を下ろさなければ船が転覆する危険がある。
その問答のうちにも風は勢いを増し、船は信じられないほど傾いでいく。
男は二人の若い男を呼び付けた。
マストを示されて彼らは蒼白になった。
その場を逃げようとした。
しかし周囲は他の船員らが取り囲んでいる。
二人は顔を見合わせた。
そして仕方なさそうにマストに近づいていった。
ゴーゴーと山のような波が襲いかかってくる。
濡れたマストは滑って掴みどころがない。
それでも船上から睨む集団にやむなく上へのぼって行った。
たちこめた暗雲から稲妻がとどろきはじめた。
不気味な光が、絶体絶命の彼らをピカッピカッと照らしていた。
◆ ◆ ◆
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