はるけき きみに  ー 彼方より -
はるかな出逢い

 行きたい どこかへ
 ただそれだけだ

 マシューは紫音(しおん)に言った
 彼の目は西日を帯びて輝いている

 それはすごくまぶしいものに 紫音には見えた


           ◆  ◆  ◆


 大海は荒れていた。
 季節外れの嵐に、風が吹き荒れ突き刺すほどの雨が降っている。

 その海原で一艘の船が揺れていた。
 船はそれなりに大きいが、もてあそぶような大波が上下、左右へと揺さぶっている。

 甲板で大男が怒鳴っていた。
 怒ったようにこぶしを振りあげ何かを命じていた。

 彼は船に張ってある大きな帆を指さした。
 高いマストにいくつもの帆が張られている。帆は今にも張り裂けそうに風を孕んでいた。

 どうやらその帆を下ろせと命じているらしい。
 水夫が懸命にロープを操作しようとする、しかし動く気配がない。綱が絡まっているのだ。しかもその絡まりはマストの上部だ。

 大男がわめき続けていた。
 誰かが登って絡まりを解けと言っているらしい。
 船員は尻込みした、この暴風雨のなか上まで登れるわけはない。
 だがしかし、帆を下ろさなければ船が転覆する危険がある。

 その問答のうちにも風は勢いを増し、船は信じられないほど傾いでいく。

 男は二人の若い男を呼び付けた。
 マストを示されて彼らは蒼白になった。

 その場を逃げようとした。
 しかし周囲は他の船員らが取り囲んでいる。

 二人は顔を見合わせた。
 そして仕方なさそうにマストに近づいていった。

 ゴーゴーと山のような波が襲いかかってくる。
 濡れたマストは滑って掴みどころがない。
 それでも船上から睨む集団にやむなく上へのぼって行った。

 たちこめた暗雲から稲妻がとどろきはじめた。
 不気味な光が、絶体絶命の彼らをピカッピカッと照らしていた。


          ◆  ◆  ◆
< 1 / 97 >

この作品をシェア

pagetop