はるけき きみに  ー 彼方より -
「ああ、ひどい嵐だったね」
 女は窓を開けると海を見やった。
 東の方があかくなっている。もうすぐ夜が明けようとしていた。

「網は、舟は大丈夫かねぇ。波に持って行かれてないといいけれど」
「俺、見て来るよ」
 息子とおぼしき男が答えた。

「徳三、舟と網だけを確かめたらいいんだからね。またあの紫音(しおん)の所へ行って世話を焼いたりするんじゃないよ」
 男は図星を刺されたように足を止める。

「別にいいじゃないか、ちょっと様子を見て来るだけなんだから」
「ふーん、そうかい。お前のちょっとはながーいちょっとなんだから」

 徳三は聞こえないふりをして家を出た。
 家と言っても浜辺の漁師らしく、小屋のような粗末なものだ。
 
 だがここらは皆そんな住居に暮らしている。
 漁をして細々と食べていく、それが日々の暮らしだった。
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