はるけき きみに  ー 彼方より -
「どうしたというのだ、これほど降って湧いたように。いや、おおかた娘の家出であろうが。家庭の困りごとを持ち込んでくるな、ここはよろず相談所ではないのだ」

「しかしお役人様、この事態はおかしゅうございます」
 帰ろうとしていた地区会長だった。
「あちこちの娘がいっせいにいなくなるなど前代未聞、新手の人さらいが出たのではありませんか」

「そうだ、それに違いない」
「我われに何ができると言うのでしょうか、役所に力を貸してもらいたいのです」
 親たちが必死に訴える。

 姿を消したのは会長の孫を含め農村の娘が六人、商店街の娘が五人、大工や鍛冶屋などの職人の娘が三人だ。
 ほとんどが同日に失踪するという奇怪な事件だった。

「ならば仕方ない、上部に伝えて対処するとしよう」
 係官がしぶしぶ答えた。

 だがさらに後日も姿を消す娘が増えていった。

 娘を持つ親は青くなった。
 決して外へ出るなと言いつける。しかしその日暮らしの生活では娘も大事な働き手だ。
 やむを得ず仕事に出る、するとまたその娘が消えていった。

 神隠しだ、かどわかしだと街はもちきりになった。


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