はるけき きみに  ー 彼方より -
 そんなさなかだった。 

「とつぜん申し訳ありません」
 武家の娘が紫音を訪ねてきた。

「私は石川多鶴と申します。兄が大変お世話になっております」
「ああ、あの石川さんの妹さんですね」

「はい。兄から言付けしてくれと頼まれまして。本人がお訪ねすればよかったのですが、市中で問題が起きていて私が代わりに来たのです」

 玄関先でする話ではない、部屋に招いた。

「紫音様もご存じと思いますが、最近娘が突然姿を消すという事件が頻発しています。兄はその捜査に駆り出されているのですが、実は」
 といって声を潜めた。

「夕べのことでございます。兄は同僚の田中様と市内を見回りに出ていて突然得体の知れぬ男に囲まれたそうです」
「えっ」

「男らは刀を振りかざして、余計なことをするな。お前らの行動は役所のためになっておらぬのだと言って」
「役所のためになっていない?」

「次には、亡き篠沢丹波の断罪の件を思い出すことだな、と続けたと」
「なんですって」
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