はるけき きみに  ー 彼方より -
「兄が申しております、これは丹波様に関係することだと。だから紫音様には気を付けていただきたいと」

「・・それはいったい」
 と言ってから、
「今、あの抜け荷の事件を調べてくれている人は?」
「丹波様がご存命のときは大勢いました。でも亡くなられてから一人減り二人減りして、今は兄と田中様だけになっています」
「そうでしょうね」

 もしかして、二人は役所のなかで孤立しているのではないかと思った。
 それでもあきらめず突き進もうとする意志に頭が下がる思いがした。

「男は丹波様の名を出したのです。それが娘の失踪事件とつながっているのでしょうか?」
「父は一年前に死去したのよ。でも、相手がそう言ったとすれば・・」

「兄もまだ仔細はわからないと。それで夕べ男に囲まれたあと、いったん引き上げると見せて彼らの後をつけたのです。男らが入っていったのは菱屋という商店でした」
「ひし、や・・」

「はい、堀川に面した雑貨屋です。でも菱屋はただの手先で、背後に黒幕がいるのだと兄は言っています、それが抜け荷の主犯なのだろうと」

「抜け荷・・、娘の失踪・・」
 考えられるのは一つだ。外国へ売るために娘を集めている、それ以外にない。
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