はるけき きみに  ー 彼方より -
「ここ数日で姿を消した娘が多すぎるのです。黒幕は性急に動いていると思います。だとしたらその船は間もなく出航するでしょう。もしこの堺の港を出たら捕まえる(すべ)がなくなります。だから兄も焦っているのです」
 と言いながら身を乗り出してくる。

「数日前にね、石川さんたちは父の位牌の前で遺志を継ぐと言ってくれたそうなのよ」
 一直線な多鶴の性格は兄譲りだと思いながら、
「でもその黒幕は強大なはずよ。その黒幕に田中さんと二人だけで立ち向かうなどと危険過ぎるわ。父もそこまでは望んでないはずよ」

「でもあの二人はあきれるほど頑固です、なにが何でもやり抜くのだと。途中で投げ出すとは思えません。敵と相討ちになっても本望だと口走って」
「相討ちですって」

「私もなにか出来ることはないかと思案しているのですが、なにぶん女の身で・・」
 悔しそうに下を向いた。

 と、次の瞬間はっとしたように、
「・・もしかして夜の下町界隈、そこらでは出て来るかもしれませんね、賊が」
「え?」

「あ、これは時を過ごしてしまいました。私はこれで失礼します」
 言うなり立ち上がった。
 止める間もなく帰って行く。
 その後ろ姿を声もなく見ていた。
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