はるけき きみに  ー 彼方より -
「大変なことになりましたね。石川様も心配でしょう」
「そうね、でもそれ以上に田中さんの顔色が変わっていたわ」
「え?」

「八重は気が付かなかった? 多鶴さんの名前が出るたびに田中さんがはっとして。親友の妹だから心配しているのではなさそうよ」
「それは・・、もしや田中様は多鶴さまのことが?」
「好きなのでしょうね、間違いなく」

 と、そこでふと思いついたことがあった。
「八重、菱屋の隣はたしか小間物屋だったわね」
「はい」

「私、最近櫛を折ってしまってね、新しいのが欲しいと思っていたのよ」
「お嬢さま、それはもしかして?」
「行ってみましょう、小間物店へ。隣から覗いたら何かが見えて来るかもしれないわ」

「それは、その、大丈夫でございますか、女だけで出かけていくなどと」
「さっきの石川さん達の顔色を見た? 真っ青になっていたでしょう。人さらいは血も涙もないのよ。娘たちをさらって外国に売り飛ばそうとしている。だから多鶴さんが危ないのよ」
「・・・・」

「あの二人は危険な橋を渡ろうとしている、父の遺志を継いでね。それなのに私がなにもしないでじっとするなんて出来ないでしょう?」
「・・そ、そうでございますね」


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