はるけき きみに  ー 彼方より -
 ひし形に彫り上げた家紋の下に男が集まっている。
 崩れた格好で、何をするともなくそこらをたむろしていた。

 そんな様子を陰から紫音と八重がのぞき込む。

「恐いならあなたはここにいていいのよ、一人で行ってくるから」
「そんな、お嬢様だけにする訳にはいきません。それに、入っていくのは菱屋じゃなくて隣の小間物屋ですよね?」
 念を押して後に続いた。

「いらっしゃいませ」
 店主が揉み手をして迎える。

「新しい櫛が欲しいと思ったのよ。ここに並べてあるだけかしら」
「いえ、店の奥にもございます。入荷したばかりでまだ店頭に並べていないのがありまして」
「それを見せてもらえる?」

 はいはい、と通路を奥に導いていく。

「あら、ここには舟屋(ふなや)があるのね」

 雑貨屋は堀川に面していた。
 最奥の部屋がそのまま舟着き場になっている。いわゆる舟屋という造りだ。
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